3.気になる子どもとその対応「発達に課題がある子どもや家庭に問題がある子どもへの対応」(1)
ただいま御紹介いただきました、あきやま子どもクリニックの秋山といいます。今回、このような機会を頂きまして、ありがとうございます。また、座長の岡先生、ありがとうございます。それでは、始めたいと思います。
既に御存じかもしれませんが、数年前に成育基本法が成立し、取り組む基本方針に、バイオサイコソーシャルという文言が入りました。
疾病など、体だけではなく、心理・社会面にも十分目配りすることが求められています。子供自身のこと、親のこと、親子を取り巻く環境のことに目を向けていくことになります。
そこで、子供に関わる、私たちが気になることを、子供のこと、親のこと、環境に分けて列挙してみました。
子供のことについては、運動発達の遅れ、育てにくさ、言葉の遅れ、集団生活でのトラブル。親のことについては、親子関係、親に精神疾患が疑われるなど。そして、親子を取り巻く環境として、経済状況、地域社会との関係などがあるかと思います。
そこで、これから、これらに焦点を当てて話をしてみようと思います。
まず、子供についての運動発達の遅れです。
このグラフは、乳幼児健診時の質問紙による発達を見たものです。各グラフの最も左に運動領域が示されています。6,7か月健診の頃には、寝返りしないお子さんから、既につかまり立ちをするお子さんがいます。9,10か月健診のときには、ずりばいをしないお子さんから、歩いているお子さんがいます。1歳6か月健診頃には、ほぼ全員が歩行可能となっています。
このような運動発達の違いを、保育現場では、ゆっくりなお子さん、あるいは早いお子さんとして、よく目にされていると思います。
運動発達は、歩いてしまえば、一旦気にならなくなりますが、1歳6か月健診時の食事や言語のところでばらつきが出ていることに気をつけておくことが必要に感じています。
さて、運動がゆっくりなお子さんに対して、少し手助けができるといいと思います。また、保護者が心配している場合には、家庭での遊びに取り入れてもらうといいと思います。
首の座りが遅いと感じたら、写真の左上のように、脇の下にバスタオルを置き、頭を上げるのを助ける方法や、その下の写真のように、縦だっこを多くしてあげるのもいいかもしれません。
また、6か月頃にお座りの姿勢が保ちにくい場合には、上の真ん中の写真のように、腹部にバスタオルを置いてあげると、お座りの形がとれるようになります。
寝返りができないと心配されたら、おむつを替えるタイミングなどで足を交差させて、お尻を少し押してあげると、寝返りの練習になります。
また、うつ伏せが嫌いなお子さんには、上の右の写真のように、大人のおなかの上で、うつ伏せの姿勢にして遊ぶと、嫌がらずに遊ぶことができます。
ずりばいを促すには、手足の分離運動を引き出すために、小さい写真の真ん中のように、おもちゃの位置を工夫して、おへそを中心にしてぐるぐる回るピポットを促します。
ずりばいの次は四つんばいです。写真下のように、クッションやお布団などの障害物を超える遊びから、だんだん抗重力姿勢が多くなっていきます。
時々、写真右下のように、片膝を床につかずにハイハイするお子さんや、うつ伏せが嫌いで、座った姿勢でお尻でいざるお子さんがいます。下肢に麻痺などの障害があるわけではないので、心配は要りません。また、ハイハイの形を直す必要もありません。
ただ、このハイハイやいざりっ子は、発達障害のサインとも知られてきていますので、この後、砂遊びが嫌い、揺れるものが嫌い、高いところを怖がるなどの感覚遊びは大丈夫かどうか、注意しておく必要があります。
歩いた後に運動が気になるのは、走るのが遅い、鉄棒などの遊具でうまく遊べないなどの体の使い方が苦手なお子さんたちではないかと思います。大体3歳頃には片足立ち、片足で数秒立てるようになってきます。
スライド6の表は、片足立ちをするかかしポーズができるかどうかを見たもので、年少、年中、年長さんたちを調査しました。Aのポーズを年少さんで80%、年中で90%、年長で100%できるようになります。
BとCのポーズのお子さんたちを保育現場ではだんだん気になり、年長さんでは明らかに気になるのだと思います。
スライド7は、かかしのポーズと同じく、オットセイのポーズをしてもらうもので、BやCの姿勢のお子さんたちは気になると思います。
スライド8も同じく、飛行機のポーズで、できるお子さんとできないお子さんが各年齢にいると思われます。
そこで、かかしやオットセイ、飛行機のポーズを家庭で1日1回、10秒ずつでも練習してもらうと、次第にできるようになります。保護者と一緒に、お子さんは励ましながら取り組んでみてはいかがでしょうか。
次に、言葉の発達ですが、1歳6か月健診では、名詞が3個出ていることをチェックしています。1歳半から2歳の間に20個から30個ほどに増えていきます。2歳では300個となり、急激に語彙が増えていきます。
品詞の発達は、「ママ」、「パパ」、「ワンワン」、「ブーブー」などの名刺から始まり、「パパいた」などの動詞を使うようになります。そして、赤、青、黄色、緑などの色を覚える頃に、「赤い靴」などの形容詞が分かるようになります。同時に、「何」、「どうして」などの質問をして、疑問詞を使うようにもなっていきます。
次に、5W1Hの発達ですが、最初は「どっち」と聞くと、指を差したりして選ぶことができます。それから、「誰が」、「何が」、「どこで」、「どうした」、「いつ」などで文章が成り立っていきます。
小学生の子供たちでコミュニケーションが苦手という相談があったときに、日記を書いて練習をしてもらうことがあります。最初は、「僕はサッカーをした」という簡単な文から、「僕はタロウ君とサッカーをした」、「僕はタロウ君と公園でサッカーをした」、「僕はタロウ君と公園でサッカーをして楽しかった」、「昨日、僕は太郎君と公園でサッカーをして楽しかった」というような文章になっていきます。
このように、文章を組み立てることができるようになってくると、学校でも「どうしたの」という質問に答えるのが上手になります。
また、家庭での大人の会話は、言葉のシャワーになるので、両親、あるいは家族が、今日の出来事を報告し合うのは、とてもいい環境になります。
発音の発達は、生後4か月から声を出して笑うようになり、喃語が出始めます。その喃語は、「ママママママ」、「ババババババ」などの口唇音となり、次に、「タタタタ」、「チャチャチャチャチャ」などが加わり、「ママ」などの音をまねることから、言葉、単語が形成されていきます。
語彙が増えていく途中に、「先生」を「テンテイ」と言ったりしますが、そこで言い直させたりはしません。構音は、最後の身だしなみの部分と考え、語彙をたくさん獲得し、使うことを優先します。
保護者への説明に、洋服をやっと着られるようになった子供に、「シャツをきちんとズボンに入れなさい」と言うのは少し酷ですよね。「上手に服を着られるようになってから、身だしなみを整えるのはどうでしょうか」などと説明をしています。
言葉の遅れが気になったときの対応の1つを紹介します。
まず、子供としっかり視線を合わせること、そして、動作をまねすることができるようにすること。これを促す遊びが、触れ合い遊びというもので、童歌の一本橋などがその1つです。
動作で「頂戴」や「おいで」などの要求が示せるようになり、言葉をまねすることによって、発語となっていきます。これは、子供によって獲得する時期が異なりますので、何歳からでも、ここからスタートしていいと思っています。できないと諦めるのではなく、毎日の積み重ねが大事です。園の先生方が得意としている遊びをぜひ家庭に紹介してみてください。
触れあい遊びは、人に対する興味や共感の心を育てます。抱き締める、飛行機、お馬さん、くすぐり、高い高いを、私は6,7か月健診頃に紹介しています。そして、目合せ遊びは、人と目を合わせる練習としてとても大切です。子供の目を見て渡す、近くで名前を呼ぶ、自然に目が合うまで待つことにします。
指さし遊びは、共同注視力を高めるので、指さしが見られ始めたら遊んでほしいと思います。
歌と手遊びは、まねをする力を高めるので、9,10か月健診で紹介をしています。糸巻き巻きやひげじいさん、頭・肩・膝・ポンは取り組みやすい手遊びで、子供がまねして動き、そして、「とんとんとん」の「と」だけでも言えたら、それは大きな成長と言えます。
触れあい遊びでは声を出して笑うなどができていても、まねの段階になるとうまくいかないことがあります。1歳頃に指示が入りにくいことに気づいたときのワンポイントアドバイスです。
ハイタッチや握手をして、褒められてうれしいという気持ちを育てます。
平岩幹男先生の外来では、1日50回ハイタッチをすることを勧められていました。家庭では、御褒美にハイタッチだけではなく、飲物や食べ物を使ってもいいかもしれません。
バイバイ、バンザイ、いただきます、手遊びなどのまねを覚えてもらうことは続けますが、ボールのやり取り遊びや触れ合い遊びの関わり遊びを多くして、子供がもっと遊びたい、もう一回やってという要求を引き出します。その際のサインは、目を見たり、手を持って行くクレーンや、声を出すなど様々ですが、そのサインを見逃さないようにします。