1.イントロダクション「新型コロナウイルス感染流行下での子どもたちの生活を振り返って」(2)
ただ、皆さんが努力されているということは非常にすばらしいことだし、そのことを社会としては評価すべきだと思っています。
さて、コロナがどのように子供たちに影響しているかということなんですけれども、スライド8は、私たち小児科学会の感染症の専門の先生方に作っていただいた絵で、2年前に流行し始めたときに作っていただいたんです。真ん中にコロナがいるんですね。コロナがいて、子供たちにどう影響するか。
下のところに書いているのは、子供たちがもしコロナに感染したとしても、そんなに重くならないということを描いてあります。実際に、海外、例えばアメリカでは、数百人の子供たちが亡くなっています。400人とか、500人とか言われています。
日本では、残念ながら亡くなったという方は3人から4人と言われていて、幸い、日本の子供たちはそんなにCOVIDで何か重篤になるということは本当に例外的だと思っています。
スライド8の左側のほうには、例えばCOVIDの影響で医療的なこと、例えば、健康診断が受けられないとか、予防接種が十分行かないとか、そのようなことがないようにしましょうと書いてあるんですけれども、より大事だったのは右側のほうです。右側のほうは、「学校閉鎖」と書いてありますけれども、これは保育園も同じだと思います。そういう保育園や学校など、そういう子供たちの生活や教育の場が閉ざされてしまうと、大変大きな影響があるということです。
それから、保育園の給食が大事なお子さんたちもいると思います。
それから、中には社会が緊急事態宣言になったりすると、親御さんが自宅にいるということでの虐待のリスクはどうだろう。そういったことが、当時、懸念されたわけです。
スライド8の中で保育に関係して言うと、生活の場である保育園を休んだりするという影響が一番大きくて、日本の場合には、幸い、一時的な閉鎖、休園ということはありますけれども、何とか保育は頑張ってやってきていただいたのではないかなと思っています。
それで、そういう子供たちの生活が、COVIDでいろいろな影響があったわけですけれども、それが一体子供たちをどう変えているのかということが、海外でいろいろ研究されています。
もちろんその国によって事情が違って、例えばアメリカなんかですと、ロックダウンといって、完全にシャットダウンするような社会の変化を一時的にしたりしています。日本は、ロックダウンということはしないで、何とか少しずつ子供たちの生活を維持しながらやろうということになっていると思います。
ですが、こういうパンデミックが子供たちの発達に悪影響を及ぼしているのではないかといった心配が、世界中でされているわけです。
まだ、はっきりとした研究はそんなにいっぱいあるわけではないんですけれども、最近の早期の研究結果の報告を見ると、やはり乳児に関して言うと、少し心配だというデータも出ています。
それは、先ほどお話ししたように、国によってロックダウンなどの状況が違いますので、必ずしも日本に当てはまるわけではないですけれども、例えばアメリカの研究なんかで言うと、ニューヨークなどは、パンデミックで生活の制限が非常に厳しかったときに生まれた子供たちの乳児期の発達が、遅れぎみだという指摘があります。そのようなものを聞くと、やはり非常に心配になりますよね。
日本の子供たちがどうなのか、ちょっと客観的なデータを持っていませんけれども、そういったことがないようにということは、とても大事なことだと思っています。
それは、どうしてそういうことになるのかということですけれども、いろいろな原因があり得ると思うんです。
1つ言われているのは、やはり御家族が抱えているストレスというのは心配なのではないかと言われています。例えば、妊娠中にお母さんがストレスを抱えてしまうと、やはりお子さんたちの発達に、影響としてはあまりいいものがないということは分かっています。
パンデミックのときに、アメリカでロックダウンという状況で過ごした後に、お子さんたちの発達が少し遅れぎみになるのではないかといったデータも出てきています。
ですので、そういう意味では、パンデミックが子供たちの発達という意味で悪影響を及ぼす。単にかかったからということではなくて、生活の変化が悪影響を及ぼすのではないかということが心配されています。
ただ、もう少し別の面で言うと、こういう研究結果もあります。
例えば、保育のような早期教育の集団に参加した群と参加していない群を比較したときに、こういうパンデミックの下では、参加した方のほうが発達に影響を受けなかったというデータがあります。それは、子供たちの通常の生活を維持できた子供たちについては、幸いにも、例えば、パンデミックで家の中に閉じ籠もったりということではなく、影響を保てたのではないかというデータが出ていて、そういう意味で、日本の場合には、保育園が完全に休園するということではなくて、多くの保育園が頑張って運営していただいたことは非常に大きかったのではないかなと思います。子供たちの発達という意味で大事だったのではないかなと思っています。
それから、スライド10は、このシンポジウムの前に事前に頂いた御質問の1つですけれども、マスクのことです。マスクは、ちょうど今、保育園で何歳からマスクをしたらいいんだというのがいろいろな議論がありますけれども、私自身は、何歳からというのは、あれは別に医療や行政が決めることではなくて、現場が決めればいいと思っています。いろいろな個性のお子さんがいらっしゃるわけですし、2歳からというのも、別にアメリカのCDCというところが2歳未満ということを言い出したわけですけれども、そんなに厳密な世界的な合意、医学的な合意があるわけではないので、そういう意味で、あれは本当に保育の現場の皆さんが相談して決めていただければいいことだと思っています。
それで、御質問の趣旨としては、マスクをしていると、子供たちに口が見えない、表情が伝わらない。そのことによって、保育で人間性などが育めないのではないかという心配の御質問を頂きました。
これは、実は、世界中の人が同じことを心配しています。それは、昔、心理学の実験で、母親のような養育者の方が、いくら赤ちゃんが笑いかけても表情を変えない、無表情でやると、だんだん赤ちゃんはお母さんに働きかけをしなくなって、そういう人間関係を築きにくくなると、心理学で言われていることがあります。要するに、愛着関係をつくるとか、そういうことですよね。
そういうことを思うと、口元が見えない。そうすると、表情も見えにくいし、大丈夫だろうかと世界中の人が心配したわけです。
これに関しては、はっきりとした長期的な影響についてのデータはないですけれども、例えば、赤ちゃんにマスクのない表情と、マスクをしたときと、それから、ある研究では透明なシールドをしたときと比較をしてみたという研究があります。それは、短期間のその場だけの研究ですけれども、そのときに、赤ちゃんの反応はマスクをしても変わらなかったということがその研究では言われています。
つまり、お母さん、あるいは保育士さんが声かけをしたり、それ以外の動作とかで伝えた場合に、マスクをしても十分伝わるんだと、その実験的には出ています。
そういう意味で、こういった実験というのは、また今後もいろいろなデータが出てくると思いますし、結論が1つではない可能性はあるんですけれども、幾つかの研究を見ていると、おおむねマスクをしていることによって、何か物すごく悪影響があるということはなさそうなのではないかなと、今、私は考えています。
恐らくは、それ以外、つまり、皆さんは子供たちに接するときに声をかけたり、動作をしたり、それから表情といっても、本当に身振り手振りを含めて表現されていると思うので、そういったことで皆さんの気持ちは十分伝わるんだなと思っています。この点は、世界中の人がすごく心配していたんですけれども、大丈夫かなと思っています。
ですので、おうちへ帰って、例えば、お母さんと一緒のときにマスクを外して、お母さんが十分に対応してあげたりすれば、マスクをずっと保育園でしているから、子供たちが愛着関係をつくれないというものでは、どうもなさそうです。
今のパンデミックは、私も病院の立場ですけれども、本当に毎日大変です。毎日いろいろなことが起こって、それに対してどうしようということばかりで、正直、皆さんもそうだと思いますけれども、うんざりしていると思います。
これは、我々大人にとってもそういう意味ですごく大変ですけれども、正直、子供たちも大変だと思います。ですので、子供たちの生活の場を保育の場で守っていただくということを、ぜひ引き続きお願いしたいなと思います。
今日お話ししたように、子供たちへのマイナス影響というのも、もしかしたら出ているのかもしれません。それは、やはり大人が影響を受けているように、子供も影響を受けているわけです。
ただ、先ほどお話ししたように、例えば、保育に参加しているのと参加していないのが違うように、環境の中でいろいろ工夫をすることによって、仮に一時的に影響を受けていたものも取り戻せる可能性はあるわけです。ですので、そういう意味で、まずはともかく感染が収まることだと思います。収まったときに、またそこからスタートすればいいだけであって、私たちはあまり悲観しないほうがいいのではないかなと思っています。
そういう意味で、いろいろな制限があって大変だと思いますけれども、あしたからの保育を頑張っていただければと思って、お話をさせていただきました。
御清聴どうもありがとうございました。