4.総合討論(2)
岡
そうしましたら、今度は秋山先生のほうにいろいろ御質問を頂いている中で、既に今日の御講演の中でお答えいただいたものもあるんですけれども、個別性のある質問などもありますので、繰り返しになっても結構だと思いますので、少しお答えいただければと思います。
まず、最初の御質問で頂いたのは、兄弟でADHDの傾向がありそうなお子さんがいらっしゃる。保護者は困ってはいるが、気づいていない場合などは、どのような方法で療育につなげたらいいでしょうか。かなり具体的な御質問ですけれども、多分、お兄ちゃんと弟さんがお二人ともADHD的なお子さんで、お母さんとしてはきっと困っているけれども、当たり前だと思っておられるのかなと思いますが、そういった場合に、園としてはどういうアドバイスをしたらよろしいですかね。
秋山
保護者が困っているということは、何か落ち着きがないとか、多動で暴れているということで困っていらっしゃると思います。気づいていないというのは、ADHDだということに気づいていないということだと思います。
私は、ADHDそれ自体に気づく必要はないと思っていて、子供の何が困っているのかということを明らかにして、それをどうしたら解決できるかという方法を一緒に考える。もしも園で一緒に考えるのが難しければ、専門の先生にちょっと聞いてみませんかという流れのほうがいいかなと思っています。
岡
ありがとうございます。
先生のスライドの30枚目のところで、保護者への説明は、事実を伝えて、その取組などをお話しして、どちらかというと、医療につなげるみたいなことはその後の話だということですね。分かりました。
それから、また別の御質問では、気になる子供とその対応については、保護者を替えることができないので、日々子供の成長や園での関わり方を伝えていくしかないと伺ったことがあるのですが、ほかに保護者が前向きになって、子供にとってもよい影響をもたらす良い方法があったら教えていただきたいですということで、今日のお話の中にもあったと思うんですけれども、改めて、どういったことを保護者には伝えていったらよろしいですかね。
秋山
今は、子供たちのいいところを伸ばしていくというところが大事なので、子供の困ったところや気になるところを抽出して直していこうとするのではなくて、子供のいいところをどんどんこう増やしていくという視点のほうが、保護者も一緒に考えたりするのにやりやすいかなと思っています。
岡
それは、例えば、保育園で保護者の方と一緒にいられる時間は短いと思うんですけれども、何か実践してみせるみたいなことがあると本当はいいんだろうと思うんですけれども、何かいい方法はありますかね。
秋山
例えば、今日少し話をしましたけれども、保育園の先生が一緒に膝の上に乗せて本を読んでいたら、今日は1冊全部お膝の上で座って聞くことができましたよとか、そういうふうにいいところを保護者に伝えてあげて、おうちでもやってみませんかという流れで伝えてあげるのはどうでしょう。
岡
ありがとうございます。
そうやって具体的なアドバイスがあると、きっとより有効なんだろうと思うんですけれども、ちょっと先ほどの質問にも重なるんですが、ADHDに限らず、例えば、自閉症の傾向のお子さんなどもいらっしゃると思うんです。気になる子供の保護者へ、発達が気になることや、専門機関へつなげていただきたいということを伝えてもいいのでしょうかということで、どういった場合に積極的に専門機関、医療機関を受診してくださいねということをより伝えたほうがよろしいんでしょうか。何かその辺りの見極め方というのはありますでしょうか。
秋山
日々、先生方も努力をして対応してくださっています。
やはり自分たちがやってもうまくいかないんだということを保護者に理解していただいて、ちょっと専門家の話を私たちは聞きたい、教えてもらいたいという形でつないでいただくのも1つの方法かと思います。
岡
確かにそれは非常に分かりやすい。診断をしてもらってくださいということではなくて、対処法を一緒に教えてほしいということですね。分かりました。
その御質問の続きでもあるんですけれども、中には私たちから見て明らかに支援が必要な子が多く、年々増えてきているのですが、保護者によってはクレームをつけてくる方も多い状態で困っていますということで、発達に課題のあるお子さんなんだけれども、なかなかうまくいかないことについて、クレーム的につながってしまう。ちょっと難しい親御さんですけれども、何かいいアドバイスはございますでしょうか。
秋山
きっとこのクレームをつけてくる方も、保護者自身も困っているのではないかと思います。やはりそこを、自分たちも同じように困っているんですと共感をするような立場で、一緒に考えましょうという方向に持っていくのがいいと思います。
岡
ありがとうございます。
親御さんが困っているということを、ある意味では気づいていただく。そして、それを一緒に考えていくという姿勢。なるほど。とても分かりやすい御説明だなと思います。
それから、別の御質問で、身体面での発達の遅れが気になる子へのアプローチの方法ということで、先ほどの乳幼児の片足立ちなど、幾つかの身体面というか、運動面での発達の遅れが気になるお子さんへの具体的な指導法も頂いたかと思います。あるいは、もう少し年長のお子さんたちですかね。そのくらいの子供たちで、例えば、運動発達が遅れていたりしたような場合などはいかがでしょうか。先生、何か御指導などはされていますか。
例えば、非常に不器用なお子さんなど、現場ではなかなか難しいでしょうかね。
秋山
体幹をつくるような遊びというのが大事で、園の中で体づくりができるような遊びを何かの研修会で聞いていただいて、園の中で取り入れるということもいいかと思います。
体の使い方がうまくいかないお子さんたちは、お母さん方も気にしているので、早い時期から療育で運動面を鍛えてくれるような療育機関、児童発達支援施設もあるので、そういうものを紹介してあげるのも1つの方法かと思います。
岡
ありがとうございます。
児童発達支援は、何らかのそういう医療機関の診断書を頂ければ参加できますので、そういったところでの訓練を紹介したりもしていただくといいのかなというお話だったかと思います。
それから、1つは、ここで頂いている質問は、発達に関して支援が必要であると感じている児童がいるが、保護者に困った感はなく、なかなか適切な支援に結びつかない。これは、先ほどの御質問と同じなんですけれども、外国籍の方で、この保育園の方がすばらしいなと思うのは、母国語にして伝えている。だから、母国語の通訳の方とかですかね。母国語にして伝えているが、ニュアンスが違うのか伝わらないということで、就学相談や健診も「大丈夫」と言って帰ってきてしまった。先生はそういった外国の方などの御経験というのはございますか。
どうでしょうか。また、文化の違いというのもきっとあるんだろうと思うんですけれども。
秋山
そういう経験はないんですけれども、岡先生がおっしゃるように、文化の違いというのは、やはり大きいかなと思います。
それで、就学相談や健診も「大丈夫」と言ってしまった後に、自分たちの心配、気になっているところを、どこに、どのようにして伝えるかということだと思うんです。もちろん、保護者が同じように気づいていただいて、保護者の口から学校などに伝えてもらうと一番いいんですけれども、もしそれができない場合は、卒園するときに、児童票というものがあると思いますので、そこに気になるところは一言書いて、学校に伝えていくという方法もあるかと思います。
岡
ありがとうございます。
日本で暮らしている外国籍の方、また、そういう方々も、本当に相談先がなくて困っているんだと思うんですけれども、どのように支援していくかは本当に大事なテーマだと思います。
それから、その次の質問は、専門機関につないでも、様子見と言われたということで、保育園としてはどのような対応をすればよいのでしょうか。別のところを受診したらいいのでしょうか、先生のところへ行ったらいいのでしょうか。いかがでしょうか。
確かに、私もこの質問で心が痛むところがありますけれども、どうしたらよろしいですか。
秋山
先ほど言いました様子見という中には、診断をしないで対応していくという先生方もひょっとしたらおられて、自分にとって都合のいいところだけを聞き取られてしまい、それで、「様子を見ましょう」、「何ともなかった」と園に帰って伝えられることがあります。
そこで、医療機関と連携をとるときに、保護者に了解を得てですけれども、園での対応やお子さんの様子を、私たちからその先生に聞いてもいいですかという形で、先生方が直接医療機関と話をされるのもいいかと思います。医療機関では、お母様方の話だけを聞いて、実際の園の様子が伝わっていないときがあります。
ですので、園の様子も医療機関の先生に伝えていただけるようにしてもらうといいと思います。
岡
ありがとうございます。
それは、私も本当に同感で、園の先生方はその集団の中で御覧になっていますので、やはり親では逆に分からない部分も御存じだということで、その情報も共有していただくと医療者のほうも助かる部分もありますので、そこで具体的な解決策を御相談いただけるといいかなと思います。
それから、これが最後の御質問ですけれども、なかなか難しい御質問なんですが、保育所として、保育の間は子供に寄り添えるが、園から帰った後、翌日まで家庭で過ごす時間は保護者を信じていくしかない。やはりいろいろ複雑な御家庭、問題のある御家庭なのかなと思いますけれども、もっと児相等の連携と言われるので、児相との連携を密にとっていきたい。不安を感じて連絡をとるが、保護者との信頼関係を壊さないよう、園や区のみでの対応を求められている。状況は、前進したり、後退したりを繰り返しているということで、このままでいいんだろうかと悩んでおられるということで、恐らくは御家庭の環境が難しいのかなという、先ほど先生がおっしゃっていた育てにくさの環境の中にあるような御家庭への支援ということですけれども、先生、難しいところですが、何かアドバイスありますでしょうか。
秋山
保育園に依頼される多くは、登園の様子、欠席をしていないか、それから、身だしなみはどうかなど、そういう子供の様子を依頼されていることが多いと思います。
その中で、もう一つ踏み込んでいけば、先ほど言ったように、子供の声を聞いていただきたいというのがあります。「今日の御飯は何を食べた?」とか、それから、「休みはどこに行ったの?」とか、その子供の声から様子を聞いたら、区や児相に気になったら連絡するということもやっていただけるといいと思います。
大事なのは、どこがどうなったときが一番危ないかということを聞いておくことなんですね。児相にも、区にも、自分たちが毎日見ているところで、どうなったときが一番心配することなのかというのを確認して、それがあったらすぐに連絡するということも一緒にやっておいてもらうといいと思います。
岡先生も御経験かと思いますけれども、児相はなかなか保護など、いろいろなところで動けないことがありますので、日々の見守りに限界線というものを設定してもらって、その限界線をみんなで共有しておくということが必要だと思っています。
岡
ありがとうございます。
私自身も、保育園に通っていられるからということで安心して、安心してという言い方は申し訳ないですけれども、お願いしているといった方も、過去に経験がございます。そういう意味で、今、秋山先生がおっしゃったように、どういうことがあったらどういうアクションをとるべきなのかといったことも御相談いただければと思います。ありがとうございます。
最後に、秋山先生のほうから、今日、気になる子供の対応ということでお話しいただいたわけですけれども、保育の現場におられる方に何かメッセージみたいなもの、まとめてございますか。
秋山
お子さんたちの様子を本当によく御存じなのは、保育園の先生たちだと思います。その中から感じたこと、気づいたことを、自分だけにとどめず、園全体で、皆さんで共有をして、解決や対応をしていくことが大事だと思っていますので、よろしくお願いします。
岡
ありがとうございます。
最後、1つだけ残っている質問は、コロナの最新情報について知りたいということですけれども、コロナについては、例えば、毎日テレビをつけると、そこでコロナの日々変わる情報がいろいろと報道されています。
あれを1つ1つ見ていると、私は何か心が病んでいくような気がしていて、例えば、皆さんは保育の立場で、やはりコロナの最新情報を知っておかないといけないし、私も医療者として知っておかないといけないというところあるんですけれども、皆さん、不安な気持ちが強いので、話を聞けば聞くほど不安になるという状況があるのではないかなと思っています。
それで、例えば、2年前ですと、保育園でコロナ陽性の人が1人発生したりすると、その保育園が誹謗中傷を受けたり、そういった報道もあって、なんてひどい話だろうと思いました。
今は、逆に言うと、もうこれだけコロナがはやっていますので、実際に私どもの病院でも、やはりスタッフの相当な人数の方がコロナ陽性ということで、休みをとって、また戻ってくるという状況です。
もうこうなると、一々、コロナだからと、そんなに非難されるという状況ではなくなったかなと思います。
そういう意味では、やはりすごく大きいのは、最近流行している株が、去年の夏まではやっていた、高齢者の方がかかったら本当に亡くなってしまうんだという病気。去年まではそうだったわけですけれども、去年は、ワクチンを打つことになって、ちょっとよくなったかなという状況になったわけですけれども、今の株は、それで人がすぐに命を落とすというわけでは決してありません。昔、インフルエンザが怖かったように、コロナも、オミクロン株は対応が必要だといったようなことに変わってきたんだと思います。
ですので、やはりそういう流れを考えていったときに、かなりいいほうに来ていることは間違いないと思います。
ただ、保育の現場にとっては、アルファ株などは、子供が本当にかかりにくかったですよね。あれは、本当に今でも私は不思議なんです。あれは、まだ医学的に説明されていないんですが、本当に子供はかかりにくかったし、子供から大人にはうつりにくかったんですけれども、残念ながら、デルタぐらいから、徐々に子供もかかりやすくなって、子供から大人にもかかりやすくなったというのがオミクロン株です。
それは、要するに、インフルエンザなどの上気道の呼吸器系の普通のウイルスの性質に変わってきているわけですね。その点が、確かに、保育の場は本当に大変だと思うんですけれども、まずは、保育のスタッフの方で、特に基礎疾患がない方で支障のない方は、ぜひ予防注射を打っていただいて、3回目も順番が来たら打っていただいて、御自分が万が一かかっても重篤にならないようにしていただいた上で、できることをやっていただいて、正直、かかったらかかったで、もうそれはしようがないということだと思います。
オミクロン株は、沖縄県のデータで分かっていることは、恐らく発症前に人にうつす力はそんなにないということで、インフルエンザもそうです。インフルエンザも、発熱の前日ぐらいから人に感染させる可能性がありますけれども、前のデルタ株は、3日ぐらいまで遡らないといけなかったわけです。ですから、自分が体調が悪くなったときに必ず休む、あるいは働いているうちにもし体調が悪いなと思ったら、そこですぐに早退する。そういったことがとても大事だと思います。そういった当たり前のことをやって、残念ながらかかったら、それはそれでやむを得ないという病気に変わってきたのかなと思います。
治療薬ももうすぐできてくるという報道もありますし、だから、そういう意味で、全体としてはいい方向に来ていますので、私は引き続き、ともかく子供たちの生活を守ることが大事だと思います。
私が最近ちょっと不満なのは、親御さんが働きに行くために保育園を休園するとか、続けるとか、そういう議論になっていますが、そうではなくて、子供たちの生活の場としての保育園を守るということが一番大事だと思っていますので、ぜひ引き続き、やれる努力をしていただければいいと思います。
ですから、マスクの議論も、マスクをしている子供たちは、したほうが、子供がもし発症していた場合に、感染力が少ないと思います。できる子はマスクをするぐらいのことでいいのかなと思います。嫌な子もいると思います。特に、今日、秋山先生がお話しになったようなお子さんの中には、絶対嫌だみたいな子もきっといると思うんですけれども、その子が責められるのはやはりかわいそうなので、そういった現場での工夫をしていただければいいかなと思います。
私のほうは以上です。
今日は、これで2人の先生の講演を終わらせていただきたいと思います。本当にとても貴重なお話を伺えたと思って、私も勉強になりました。
皆さんも、これをあしたからのいろいろな保育の活動に生かしていただければと思います。
本日はどうもありがとうございました。