3.気になる子どもとその対応「発達に課題がある子どもや家庭に問題がある子どもへの対応」(2)
次に、生活リズムを一定にして、生活の見通しを持たせ、要求を引き出すというのは、毎日同じ流れで、例えばお散歩に行っていると、お散歩だと分かると自分で玄関に行き、靴を履こうとします。靴を履かせてくれという要求が出るかどうかなどを観察します。
次に、指さしで要求する方法を教えるために、「どっち?」と2者選択をさせ、手さしから指さしを教えたりする方法もあります。
東京学芸大学教授の菅野敦先生が、言葉を育てるために、2つの基本的環境と、3つの要素が必要だと述べられています。
2つの基本的環境は、生活リズム、生活の流れを子供に分かりやすくする時間的環境と、子供が生活しやすくする整頓された空間的環境です。
時間的環境によって子供たちは、次は何をするという生活の見通しができ、声かけだけで自ら動くことができるようになります。
空間的環境によっては、子供たちは、ここでは御飯を食べるところ、着替える場所が分かり、その場に自ら動くことができます。
この基本的な2つの環境が整っているところが、保育園や幼稚園です。毎日のスケジュールが決まっており、また、整った部屋で過ごしています。そのため、子供たちは落ち着いた生活ができているのです。よく集団に入れたら子供が伸びたと言われますが、もちろん子供同士の刺激もありますが、この2つの環境のおかげでもあると思います。
花を育てるのには、その環境と肥料が必要になります。その肥料となる3つの要素は、経験をし、物事の認識を持つこと、それから、体を十分動かせること、そして、人との関わりがあることだそうです。この3つを兼ね備えているものが遊びになります。そのため、この3つがある遊びを提供することが大事で、テレビやゲームは、残念ながら体を動かすことは欠けています。
言葉の遅れで、指示は入るけれども、言葉が少ないときのワンポイントアドバイスです。
よく大人の言っていることは理解しているけれども、言葉が出ないと言われるものです。
そのときは、「靴、とって」、「本、持ってきて」など、簡単なお手伝いをしてもらいながら、単語を覚えているかどうかをチェックしてもらいます。もし覚えていなければ、本を指さして、「本、持ってきて」、「本」と教えます。単語を覚えていなければ、いざ話したいときに話せないからです。
保護者の方に、「日本語は理解していても、英単語を覚えてないと英会話ができないのと同じ状況ですよね」と説明したりしています。
また、まねができるのであれば、「ブッブー」、「はーい」など、口まねを促します。言ったら、とにかく声だけでも出したら褒めてあげます。その後、おうむ返しもあります。「食べる?」と聞いたら「食べる」と言います。これも、言葉が出るための大切な過程であるので、たくさんおうむ返しをしてもらっています。
よく「たくさん言葉かけをしてあげてください」と言われることがありますが、保護者の中には、どんなことを言えばいいのか、困っておられることもあります。そこで、「靴、履こうね」、「ズボンに足入れて」と、子供の動作に大人が言葉を添えて生活する方法があることを話しています。
次に、親が感じる育てにくさです。
育てにくさには、子供に起因するもの、親に起因するもの、親子に起因するもの、親子を取り巻く環境に起因するものの4つの要因が考えられています。
ここに、それぞれの原因が列挙されています。これらの要因は、1つであったり、2つであったり、重なり合い、または、最初は1つであったものが、経過とともに2つになったりします。育てにくさが長引くときには、これらの要因を念頭に分析していく必要があります。
例えば、子供に言葉の遅れがあり、母親は子供のことをうまく説明できず、また、父親は帰宅が遅く、子育てできず、実家が遠く、祖父母の協力は得られないという親がいたとします。言葉の遅れに関しては、療育センターや市町村の発達支援センターなどを紹介し、母親の生活の評価には、保健センター、もしくは福祉事務所に相談をします。父親や祖父母からの子育ての協力が得られていない場合には、家庭への支援も必要で、また、一時保育や保育園入所を検討する必要があるかもしれません。
4つの要因の有無、そして、その1つ1つに対応、支援を考えていきます。
育てにくさは、発達障害のサインとして知られています。乳児期から、泣きやまない、寝ない、離乳食を食べない、手をつないで歩けないなどの育児上のよくある悩みも育てにくさです。そのため、子供にはよくあることだと一蹴せずに、心配がなくなるまで寄り添っておく必要があります。そして、育てにくいために、虐待に遭う子供もいます。障害を持つ子供が虐待を受けたり、また、親子心中となるケースもあり、登園状況、子供の様子、保護者の様子を見守ります。特に、「お休みは何していたの?」とか、「朝御飯は何食べたの?」などを子供に聞くことが大切です。
子育ての経験のなさから、育てにくさを感じることもあります。10代の妊婦は若年妊婦と言われ、特定妊婦として要保護児童地域対策協議会の対象になっています。産後は、その対象ではなくなります。しかし、長期の支援が必要であることは変わりなく、保育園や幼稚園や学校がその役割を担うことになるでしょう。
そのほか、親子の性格、相性、子育て環境などによって育てにくさを感じることがありますが、どんな状況であっても、親子関係の樹立、愛着関係の形成を支援します。
1歳6か月健診や3歳児健診を通過したお子さんでも、集団生活で困難さを感じることがあり、集団でのつまずきに社会性の発達が関係しています。
そこで、社会性の発達を紹介してみます。
一、二か月の頃には、人にほほ笑む反応から始まり、親子愛着関係の形成が始まります。
乳児前期、人見知りをしながら、基本的信頼感が芽生えます。
乳児後期、簡単な模倣が可能になります。
1歳、共同注視が出現し、探索行動が活発になり、親から心理的に分離して自立的に動くことができます。他児への関心が出て、おもちゃの取り合いが始まるのもこの頃です。
1歳半には、集団を形成しますが、ただし、この時期はまだ1人遊びか平行遊びです。
2歳後半、見立て遊びができます。
4歳、3人の集団で遊びます。役割分担するごっこ遊びやルールの遊びを始めます。
5歳、5人ほどの集団で遊ぶことができます。
集団生活に入って、座っていられない。みんなと同じ行動しない。気に入らないとかんしゃくを起こすことが多いなどや、4歳頃になると、ルール遊びに参加できないお子さんに気づかれるのではないでしょうか。これらの様子は、家庭では気づきにくいものです。
園でよく見られる気になる場面へのワンポイントアドバイスをしたいと思います。これは、保護者へのアドバイスにも使えます。皆様の引き出しに入れてもらったり、あるいは保護者のアドバイスに使ってもらえるといいと思います。