3.日本の新生児スクリーニングのはじまり
我が国におけるフェニルケトン尿症の新生児スクリーニングの研究は1960年前半に開始されましたが、初めは赤ちゃんの尿を用いる方法でした。尿中のフェニルアラニン濃度は尿の濃さにより変動が激しく見落としが懸念されたため、1967年から開始されたパイロット研究では、乾燥濾紙血を用いた方法が検討され、この方法が全国へ普及していきました。1976年から先天代謝異常症の早期発見を目的に新生児から、乾燥濾紙血による採血を行い5疾患の新生児スクリーニングを実施する準備が開始され、1977年に厚生省母子衛生課長通知が出され、新生児マス・スクリーニングが我が国で正式に開始されました。(我が国の新生児スクリーニングに関する主だった出来事を表1にまとめました。)
ここでいう5疾患とは、フェニルケトン尿症に加え、ホモシスチン尿症、メープルシロップ尿症、ヒスチジン血症、ガラクトース血症でした。初めの4疾患は、アミノ酸代謝異常症であり、上述の枯草菌を用いたガスリー法により検査されました。フェニルケトン尿症、ホモシスチン尿症、メープルシロップ尿症、ヒスチジン血症では、それぞれ血中フェニルアラニン、メチオニン、ロイシン、ヒスチジン濃度が上昇するため、これらのアミノ酸濃度をガスリー法により測定していました。ガラクトース血症は、ボイトラー法、ペイゲン法といった別の方法で検査されています。ここで各疾患の発症頻度について触れておきます。フェニルケトン尿症は約6万出生に1名、ホモシスチン尿症は約80万出生に1名、メープルシロップ尿症は約50万出生に1名、ガラクトース血症は約3万出生に1名、の頻度で見つかっています。ヒスチジン血症の発生頻度は約1万出生に1名と高いのですが、後に治療が必要な疾患ではないことが判明し、スクリーニングの対象疾患から除外されました。ちなみに、2017年日本では約95万人の赤ちゃんが誕生していますので、フェニルケトン尿症の患者さんは年間約15名生まれている計算になります。その後、1979年に先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)、1989年に先天性副腎過形成症、という二つの内分泌疾患が追加され、6疾患を対象とした新生児スクリーニングが長らく実施されていました(表2)。
先天性甲状腺機能低下症の発生頻度は約3千出生に1名、先天性副腎過形成の発生頻度は約2万出生に1名です。特に先天性甲状腺機能低下症は、先天代謝異常症に比べ頻度が高く、発見された患児の治療費用も安価なので、費用対効果が優れた新生児スクリーニングになっています。