3.臨床医からみた乳幼児が育つ基本とスマホへの対応(1)
前川次に、東京女子医科大名誉教授、村田光範先生に「臨床医からみた乳幼児が育つ基本とスマホへの対応」について、お話を伺います。
先生と私とは年齢的に1つ違いです。私の年齢では、先生が、私の知る小児科医の中では一番、ITとか、スマホとか、コンピューターとか、そういうことに強い先生です。今日は、自分の経験をもとにして、いかにスマホ育児が子どものいろいろなことに影響を与えているかということのお話をいただきます。
どうぞご清聴ください。
それでは、先生、よろしくお願いいたします。
村田ご紹介、ありがとうございました。
自己紹介を兼ねてちょっと宣伝を申し上げたいと思っていますが、私は今ご紹介いただいたように、小児科医の中ではコンピューターにはまってしまった男と言われています。腕にはApple Watchがありますし、胸にはiPhone Xがありますし、ここに持っているこれはiPad Proの最新型で、しかもApple Pencilまで持って動かしているんですね。ですから、コンピューターに関することであれば、ここの会場にいらっしゃる方々が質問されても答えられるのではないかと思います。
というのは、40年前は、組み立てなければコンピューターは動きませんでした。コンピューターに対して、プログラミング言語という言葉がありますが、それをカタカタカタカタとカセットでその言語をコンピューターに入れて、自分でプログラムを組んで動かしてきたわけです。ですから、Apple IIなどを見たときはもう夢心地で使っていて、我が家にもApple IIは保存してあります。そういう状況でお話をします。
それで、先ほど最後に、“technology will never replace love”となっていました。そのとおりだろうと思いますが、ただ、注釈を加えたい。“smartphone must replace love”と、私は言いたいですね。スマートフォンは親の愛にとって代わる、そういう存在だということを今日はお話ししたいと思っています。
愛着のことについては前川先生がいろいろお話しいただきましたので、私としては、スライド4から始めたいと思います。
心地よい環境の中で形成される親子関係を愛着(アタッチメント)と言っています。愛着理論によると、「子どもは、社会的、精神的発達を正常に行うために、少なくとも一人の養育者と親密な関係を維持しなければならず、それがなければ、子どもは社会的、心理学的な問題を抱えるようになる」としております。そして、子ども自身がアタッチメントを意識するようになるのは、生後6カ月から2歳ごろにかけてだと言われています。その辺については詳しくお話がありました。
スマホは、愛着形成と人と人との会話力の育成を妨げています。我々は社会生活を行いますが、社会生活で一番大事なことは会話ですね。相手の気持ちがわかり、こちらの気持ちも通じ合える。そういう2つの点で、スマホということで代表しますが、言ってみればスマホはコンピューターですから、コンピューターに置き換えていただいても一向に差し支えないのですが、今後、スマホということで話を進めさせていただきます。
スマホをコンピューターという意味で話を進めさせていただきますが、コンピューターは、乳幼児にとって保護者と同じ愛着の対象だと認識されてしまいます。その理由は、コンピューターはバーチャルリアリティを生み出すからです。バーチャルリアリティを生み出すコンピューターは人間になっちゃうんですね。これはとても不思議だとお思いでしょうけれども、人間になってしまうわけです。
したがって、先ほども言ったように、“smartphone must replace love(愛にとって代わるに違いない)”という表現もしておきたい。テクノロジー自体は恐らく愛にとって代わらない。しかし、スマホは親の愛にとって代わる可能性があるわけです。
スマホとの会話ということも話したいのですが、これは外国では“face to media communication”という呼び方をしています。生身の人間との会話は、“face to face communication”と言われていますけれども、スマホとの会話は生身の人との会話より優先することになります。こういったことを具体的な事実を挙げながら話していきたいと思います。