3.臨床医からみた乳幼児が育つ基本とスマホへの対応(4)

アメリカでは、コミュニケーションの大切さ、これがスマホを使うことによって損なわれるということを言っている心理学者がいます。Sherry Turkle という人が、“Connected, but alone”ということで、『Alone Together』という本を書いています。Alone Togetherというのは、一緒にいるようでてんでんばらばら、そういう世界です。ラインでつながっているようだけれども、そうではないということです。

これをちょっと読んでみます。

「この15年間の研究成果として私が発見したことは、ポケットに入ってしまうこの小さな携帯が、私たちの行動を変化させるばかりでなく、私たち自身をも変化させるほど心理的に強い影響を与えることです。携帯は孤独な人達を結びつけているように見えますが、実はさらに孤独を深めているのです(Alone Together)。人対人の関係(face to face relationship)を深めるためには会話が必要です。会話では話したことを変えることができず、それで終わりです。ところが、ショートメールやメール、インターネットへの投稿は、自分が思うように編集したり書き直して、自分をごまかしてしまい、しかも、時間が経つとそのことを忘れてしまうか、気にしなくなるのです。

お互いに会話することは、自分達がいかに自分達自身と会話をするかを学ぶことになります。会話から逃避することは自己内省をする能力を損なうことになり、大きな問題です。成長期の子どもにとってこの自己内省をする能力(スキル)は発達の基盤です。

人々が家庭や職場でいかにしてお互いにもっと気をつかい、お互いがしゃべることに真剣に耳を傾ける場所をつくるかについて、前向きに考えることを望んでいます」。

ということで、『Alone Together』の後に、『Reclaiming Conversation The Power of Talk in a Digital Age』という本を書いています。この時代こそ会話を重要視しなければいけない。

では、スマホを介しての会話はどのような特徴があるのか。こういうことを言っている人がいます。Face to media communicationがFace to face communicationに優先する理由ですが、オンラインによる脱抑制(相手に対する配慮の欠如)効果が起こるのです。このことから、次の6つの特徴を挙げています。

  • 1. あなたは私を知らない。
    要するに不特定多数に話しているわけです。
  • 2. あなたは私を見ることができない。
    直接触れ合っていないわけですね。あなたは私を見ていない。
  • 3. すべては私の考えにある。
    全てを私の頭の中、私の考えることだけを進めて一向に差し支えない。
  • 4. 好きなときにさようなら。
    いやになったら、ハイさようなら、“See you later”で済む。
  • 5. これはゲームだよ。
    いざとなると、これは単なる遊びですよという感覚がある。
  • 6. 私たちは対等だよ。
    不特定多数と話していますから、上下関係であるとか、人間関係に何の配慮もない。要するにequalな関係です。

人はスマホを介してこのような「気楽な人づきあい」が日常化すると、人と人が面と向かってする会話は成り立たないことになってしまうわけです。したがって、ラインでの会話とか、いろいろなインターネットを介しての会話は、相手に対する配慮が欠如するという効果を生み出してくるわけです。

そうは言っても、この世の中、スマホなしでは過ごすことはできません。結論から言うと、2歳から3歳までは、こういった機器には一切触らせないことが原則だろうと思いますが、その後になってくると、子どもがニューメディア(という言い方をしていますが)を使うときには、経済的負担を理由に2つの基本的な約束を交わすべきです。

スマホを使う経済的能力は、今の子どもたちには絶対ないはずです。したがって、携帯電話やスマホの購入費と維持費の決済方法について、きちんとした約束をするということです。

それから、インターネットやメールにかかわるプロバイダ、メールアドレス、SNSなどのIDとパスワードを保護者に公開することを約束する。小さい年齢ですと、これは親の考えだけでできますが、小学校高学年ぐらいになってくると、きちんとした約束をしなければいけないと思います。