3.臨床医からみた乳幼児が育つ基本とスマホへの対応(2)

実はこういう本があります。これはスタンフォード大学の有名な先生が書いている本で、『人はなぜコンピューターを人間として扱うのか』という本です。これも、バーチャルリアリティという考え方が我々に正しく理解できればすんなり入ってくる話ですけれども、我々東洋人はバーチャルリアリティという概念がなかなか理解できないのです。そういう社会的背景があって、こういう話を聞くと眉唾だということになるわけです。

人はなぜコンピューターを人間として扱うのか

この本の中に書いてあることをまとめてみますと、昔は、目で見た人や場所は、実際に人であり場所でありました。例えば、外に出てライオンがいたとしますね。誰も驚きません。これは作り物だろうというふうに思うわけですが、野生のライオンを見て、あれも作り物だろうと思っていたら食べられてしまうわけです。したがって、見た目、見たものは現実そのものであったわけです。これは古い脳のプログラムです。

今、我々の脳もそうですけれども、古い脳のままであります。古い脳の中には、現実の世界とスマホの世界を区別するためのスイッチがありません。したがって、スマホが乳幼児の古い脳を引っ張り回して、スマホを介して見た人や場所を現実の人や場所と認識してしまうことになります。古い脳はスマホの影響を受け続けると、スマホの世界(バーチャルワールド)を現実の人や場所として受けとめてしまうわけです。

興味があれば、ここに示した本が出版されています。原著は日本語の訳とちょっと違って、原著の副題が日本では主題となっています。古い本ですけれども、アマゾンなどで探せば買うことが可能です。

そこで、バーチャルリアリティ(VR)の話をします。ちょっと難しいかもしれませんが、舘暲さん(たち すすむ)という東大の工学部の教授ですが、『バーチャルリアリティ入門』という本でこういうことを言っています。VR とは、「みかけや形は現物そのものではありませんが、本質的あるいは効果としては現実であり、現物であること」であり、VRは仮想や虚構と違って「現実のエッセンス」です。スマホが現実のエッセンスになるわけです。

VRは東洋にはない概念であって、日本人にとって、欧米人と同じ感覚でVR を理解することはできません。このため、バーチャルリアリティを仮想現実と訳しています。今、仮想貨幣というのが問題になっていて、五百何十億円か流出した。あれは仮想ではない。現実のお金なんですね。全く現実のお金。そして、現実のお金よりも現実味を持って使えるお金という認識をしなければいけないわけです。

こういう例を挙げてありますが、同盟国と軍事演習をするとき、相手に「我が国を『仮想敵国(a virtual enemy)』としてこれから合同演習をしましょう」と言ったとしたら、彼らは驚いてしまうわけです。virtual enemy とはどういう意味かというと、敵には見えないけれども、実際には敵であるという意味です。そういうことを軍事演習のときに言ったとしたら、相手は「おまえたちは、味方の振りをした敵国なのか!」、こういうふうにびっくりしてしまうわけです。だから、supposed enemy という言葉を使わなければいけないわけです。

舘さんは、こういう概念を我々は間違えて外国人に話をしたり、コンピューターが織りなす世界を間違えて理解することが、これからコンピューターが大いに普及していく世界において、日本は恐らく立ち遅れる、あるいは、負けてしまう原因の一つであろうと言うわけです。現実に我が国はコンピューターの世界に先頭を切っては入れません。機械類にしても、台湾であるとか、そういったところのほうが優勢になってきているわけです。

そこで、VRが仮想現実でない事実をここにあらわしました。ATMというのがありますが、これは“automated teller machine”と言っています。tellerは受付係、人の名前ですね。tellin g machineとか何か言えばいいのですが、teller machineと彼らが言っているところに大きな意味がある。ATMというのは単なる機械のように思っていますが、彼らは、これを人と同じ認識で使っているわけです。ところが、我々はそれができないのです。「人とはとても思えない」というわけです。

'real'銀行窓口係 'virtual'銀行窓口係