2.ホントはやめたい! スマホ子育て(5)
そのままにしておくと、こうなります。これはイギリスの小児精神科から来た情報ですけれども、この4歳児、タブレット中毒という診断が小児精神科で出ました。ただ、これもわざわざイギリスまで行かなくても、日本でもこういう子たちはたくさんいる状態です。
ひどくなりますと、ネット・ゲーム依存です。脳が壊れるという科学的なデータ、論文も出ています。もちろん、これはもっと大きな子です。中学生、高校生、それ以上です。脳の中の、この赤く示している部分の神経の回路が、縮んで働かなくなることが発見されています。【図4】
先ほどの前川先生のお話を聞いていたら、もっと小さいころには、いろいろなところで壊れて、それが修復するのだけど、修復したときにも、どのつながり方になるかはまた違うのだということでした。
これは大人の場合の話ですけれども、その壊れる場所が、麻薬・覚醒剤でやられる場所と同じなのです。ネットゲームの依存では麻薬・覚醒剤と同じようなことが起きてきます。つまり、「ネットをやっていないと不安で不安でしょうがない」「幻聴・幻覚が見える・聞こえる」「攻撃的な言葉」「人と普通に会話ができなくなる」。それから、「相手の気持ちが読み取れなくなる」とか、「生活が乱れてしまってまともな生活ができない」「記憶が飛ぶ」などということも起きます。
ICD―11という病気の診断基準に、「ゲーム障害」という名前で精神疾患の一つとして入る予定です。
つまり、こういう言い方ができるわけです。「ゲームやスマホは麻薬と同じくらいの危険性がある」そういうものだと捉える必要があるということなのです。
よく、「そんなに危険があるというのだったら、本当に危険なのかどうか、科学的証拠を出しなさい」という人がいらっしゃいます。
科学的な証拠ではありませんが、乳児や幼児のスマホ、タブレットの利用で弊害が起きたという事例はたくさんあります。皆さんもごらんになっているケースがあると思います。ところが、将来にわたった発達に対する安全性の証明は全くされてないのです。
ですから、危険性の証拠をだせと言われたときには、私はこう言うようにしています。「では、あなたが先に安全性を証明してください。科学的研究に基づいて、健康にも発達にも悪影響がないと、ぜひ証明してください」と。実際に証明することは恐らくできないと思いますが。
本来は、機器やアプリを提供する企業が安全性を証明するべきだと思います。特に乳幼児が使う機器、乳幼児が食べるものに関しては企業が安全性を証明しています。それが当たり前ですね。もし乳幼児に使わせるのであれば、それは当然のことなのです。
ただ、多くの保護者が、先ほどお見せしましたように、よくないと思いながら、でも、「おとなしくしてほしい」といって使っています。なぜか。世間の目が冷たいわけです。赤ちゃんが泣いたら、ギロッとにらまれます。子どもが走り回ったら、うるさいなあという顔をされます。迷惑がかかる、おとなしくしてほしいというふうに今の親御さんたちは思うわけです。
若い親の現実をちょっと考えてみてください。【表3】にまとめてみました。ここで、「若い」というのは、20代~30代を言っています。今日は会場に若い方も結構いらっしゃいますね。自分たちもそうかもというふうに思っていただくといいと思います。
1983年にファミコンが発売されました。生まれたときから家でゲームができる環境です。ビデオが普及したのが85年から90年にかけて。だから、録画して見るのが当たり前になっていた時代です。そして、どこでもゲームができるゲームボーイが1989年。これも物心がついたときにはやっていました。中学生、高校生になったときにはケータイをやり放題やっていた世代です。
テレビやゲーム、ケータイで育ってきているのです。実体験よりメディアの間接的な体験のほうが多いから、人とかかわるのはあまり得意ではない。特に、人とのかかわりが深くなる思春期の時期をケータイに頼っていますので、人とかかわることがあまり上手ではない方が多いです。
子ども時代はずっと大人の目があった。自分でいろいろなことをやってきていない。失敗体験が少ない。だから、自己肯定感が低いのです。先ほど前川先生がお話しになった、その自己肯定感の低さはどこから出てきているか。自分で失敗したり成功したりした体験が少ないということです。
これ、若い親の責任ではないですね。「だって、自分が生まれたときにはあったんだもん」「生まれたときから当たり前だったんだもん」なのです。しかも、自分の親たちには、これらの悪影響に気づいて注意してくれる人というのはほとんどいなかったわけです。ある意味、時代の犠牲者なのです。さらに、そうやって育った親たちは、先ほど、前川先生がお話しくださったような赤ちゃんを育てるのに必要なことを知りません。なぜ? だって、自分は赤ちゃんにかかわったことがないから、わかるはずもない。
実は私もそうでした。赤ちゃんが泣くのは、困っていることを伝えるためということを知らない。そして、子どもが走り回るのは発達や学習にとってすごく大事なことなんだということも知らないわけです。
これをちゃんと私たちが伝えていくことがとても重要だと思っています。そして、どんな親でも、子どもによく育ってほしいと必ず思っています。「えーっ、あのお母さんも?」「あのお父さんも?」と、皆さん、頭に思い浮かぶ人がいるかもしれませんが、そういう親御さんでも、必ずそうです。これは虐待している親ですらそうなのです。子どもによく育ってほしいと願っている。だから虐待を、「しつけ」と言ってしまうわけです。