4.総合討論(5)

古野先ほどの、「では、スマホやメディアがだめだったらどうするの?」とか、「どうやったら子どもたちにいいメディア習慣がついていくのか」というところの質問がたくさん来ているので、まとめてそれにお答えしようと思います。

どんな関わり方がいいのかということですけれども、多くの親が、自分の子どもをほとんど見ていないんですよ。子どものことをじっくり見るということをやれるような、何かうまい手段を考えるといいです。【参考1参照】

【参考1】

保育園、幼稚園では連絡帳があると思います。それから、お迎えのときにちょっとお話しをする時間があるのではないかと思います。そういうときに、「こんなことができるようになっているみたいだから、今日、よく見ていて」というお話をする。園で見つけた子どもができるようになったことなどを教えて、「おうちでもこんなことができるかどうか、見ていて」といって、とにかく「子どもを見る」こと自体を親にやってもらう。これがまず一つです。

その次に、これは支援センターのように親子一緒に来るところではやりやすいのですけれども、子どもが今、何を感じているか、何を考えているか、「どう思う?」と聞いてみる。

その前段を話すのを忘れていました。そういう話ができるようになるためにとても大事なことがあって、親から信頼を得ていないといけません。親から信頼を得る方法は、前川先生のスライドにありましたが、全部受け入れる。スマホを触りながら子どもを迎えに来るという親も受け入れる。それから、子どもにスマホをすぐ渡してYouTubeを見せてしまうような親も受け入れる。「まず、今はそれでいいよね」というふうに受け入れていく。

「どんなものを見せているの?」と聞いてもいいですね。親自身がかまってもらっていないのです。親自身が十分かまってもらえたという体験、あるいは、自分が十分受け入れられたという体験をしないと、次のステップに進みません。ですから、そこを十分やる。親が依存状態の場合も同じです。依存状態の親もまずそこからなのです。直接コンタクトを取れる親御さんの場合はそれができますから、そこから入っていく。多分、「子どものことがよくわからない」と言っている親もいるでしょう。そのときは、「子どものことをよく見たらわかるようになるよ」と伝える。非常にシンプルな話です。

それから、メディアとの関わり方ですが、ネットにつながる機器とつながらない機器をはっきり分けてください。ネットにつながらない機器は、子どもが約束をつくって、子どもが守るようにしていいのです。ネットにつながる機器は、子どもだけの約束ではだめです。親が必ずそこにチェックを入れる。しかも、年齢的には、親が一緒でも10歳ぐらい以上です。社会というものが少しわかるようになってからですね。

今、皆さんが対応しているお子さんの年齢から言えば、ネットにつながらない機器で、なかでも一番最初に取り組むのはテレビです。テレビの約束から入る。今、スマホ時代だからこそテレビの約束が大事ということを、私の資料に書いています【参考2参照】。「スマホ時代だからこそ必要な家庭での『テレビの約束』」。

【参考2】

先ほど村田先生がおっしゃったように、今、情報をどう選ぶかということがすごく大事なのです。情報の選び方の土台をつくるのは、テレビの番組決めです。テレビの番組決めで家族会議を開くのです。それも、単に「この番組が見たい」だけではなくて、どうしてその番組が見たいのかという理由を大人も子どももちゃんと言うわけです。

「お父さんにはこの野球中継を見せて。何せこのチームの動向がわからなかったら、お父さんは仕事も手につかないんだから」と説明をする。子どもは子どもで言う。それが情報を選んでいくときの基準をつくるわけです。

もっと大事なのは、見終わったら消す。要らない情報は遮断する、という習慣をつける必要があるのです。それがこれです。テレビを見終わったら消す。これ、幼児はできるんです。できないのは大人です。頷いている人、そうですね? だから、まずは自分が試してみるといいです。

それから、食事中は消す。これは直接情報を大事にするということです。直接的な人間関係、目の前にいる人のほうを大事にすることです。テレビをつけてご飯を食べていたら、ご飯とか、目の前にいる人の会話よりも、テレビのほうを優先しているわけです。そういう方に限って(「親御さん」と言わずに、あえて「方(かた)」と言いますが)「子どもが食事中にスマホを使って困る」と言うわけです。「あんたも、テレビ見よろうもん」という話です。直接情報のほうを大事にするという習慣を家族の中でつくっていくこと。

「夜、早くやめる」。「朝、つけない」。朝、つけないのは、行動を優先することになります。朝はやらなければいけないことがたくさんありますね。それを優先するようになる。そして、「1日の総時間を決める」。こういう約束を子どもと話し合って決めるということを家庭でやっていく。

では、園でどうアプローチするかというと、3歳から4歳さんぐらいのクラスから、お約束づくりをぜひ園でやっていただくといいと思います。園の中で過ごすのに大切な約束を園児と先生と一緒になってつくっていく。「お約束」というのをつくることに楽しみを覚えさせる。守れたらすごく自己肯定感は高まりますし、守れなかったら、もう一回やればいいというのを学ぶわけです。

「約束するのはいいことだよ」と子どもに仕掛けておいて、家庭にはお便りで、「ぜひ、テレビの約束に取り組みませんか」という仕掛けをしていきます。そこから始めていきます。

テレビの約束がクリアできるようになったら、次はゲームですが、ゲームは手ごわいですよ。これは保護者が、しっかり保育園側の話を聞ける態勢ができていないといけません。先ほど言った、親は子どもを観察しよく見ることが大事です。保育園側は親の年齢なども意識し親子ともよく見ておく必要があります。

本来、保育園、幼稚園に通っている年代ではゲームをさせないほうがいいです。保育園、幼稚園の年代では、私たちの基準から言うと、テレビの約束で終わります。スマホはもっとずっと後の話なので、使うことが論外です。

テレビの約束ができるようになると、この質問の中にも書いてありますけれども、「自分で約束を決めて、自分でやめるということができる子ども」に育っていきます。これがゲームにおいても、スマホにおいても、とても重要な力です。この約束する力、約束を守る力を、保育園、幼稚園の間につける。しかも、約束すること自体が自分にとって有意義なんだと子どもたちが思えるように、アプローチをぜひしていっていただければと思います。

村田私の結論から言えば、今、いろいろな社会的な状況が難しいわけですから、ぜひとも2歳までにきちんとした愛着関係をつくり上げておく。幼稚園に行くのも3歳になってからというのは、3歳を過ぎると社会性というのが出てくる。社会性ができるというのは、自分と他人の区別ができるようになるということですが、その間にきちんとした親子関係、愛着関係ができていれば、その後、少々のことがあっても大きな問題は生まないのではないか、そのように思っています。

それから、ちょっと話がおかしなほうへ飛んでしまいますが、我々もサルですが、高崎山などから始まって、我が国は霊長類の研究が非常に進んでいますが、初期はこれらの研究が非常に攻撃されました。サルの研究をして何の役に立つのかということなのですが、今や遺伝子の関係から、大きな出来事というのは、生物の分類学上、ヒトがチンパンジー、オランウータン、ゴリラの仲間になり下がったんですね。同じ仲間におりてしまった、そういう状況にあります。

ですから、子育てとか、社会的な関係を考えるときに、やはり我々はサルだということを頭にたたき込んでほしいと思います。そのためには、非常に面白い本があって、『あなたはボノボ、それともチンパンジー?』という本がありますけれども、これを読んでいただくと、社会関係の中で人というのはどのように行動したらよいのか。特に日本の霊長類学というのは、初期のころ、ヨーロッパの学者たちに攻撃されたんですね。ですが、今はそれが受け入れられて、サル学から学ぶべきものは非常に多いと言われています。

どうしてヨーロッパの人たちがなかなか日本の研究を受け入れられなかったかというと、その原因の一つに、ヨーロッパにはサルがいないのです。ですから、研究者はみんなアフリカへ行ったり、アジアへ来たりする。日本はサルの北限ということで有名ですけれども、そういう意味で、もう一歩、別の原点に立ち戻って、我々はどういう行動をしたらよいのかということを考えていただくのもいいのではないかと思っています。