4.総合討論(7)

前川そうですね。今の古野先生のお話で、ゴリラは1年間、ずっと離さないんですよね。それで、人間だけは対面育児といって、いろいろな人が顔を見て面倒を見るわけです。それが人間たるゆえんなわけです。

というのは、昔は、男は表へ行って狩りをしたり、部族と争ったりする。女性は、家庭、部落にいて、共同で子どもを育てたわけです。そういうことで、たくさんの人がかわりばんこに行って、人の子どもだろうが自分の子どもだろうが育てるという関係が人間の対面育児です。親だけではなく、いろいろな人が見ているというのは人間の特徴だと思います。

それによって人類は進歩しているのですが、今は、おじいさん、おばあさんが周りにいない。父親とせいぜい母親ぐらいなので、そういう風習が少し欠けてきているというか、廃れてきていますが、原理としては、対面育児、すなわち共同育児が本来の人間の特徴だったわけです。だから、対面育児というのは決して悪いことではないんですね。でも、なかなかそれができない。

それから、いただいた質問で恐縮ですが、「母子手帳に、メディアについて、スマホについて書かれていますでしょうか」「保健所や病院の取り組みなどはどのようになるのでしょうか」ということです。

これは、明らかに悪いとか何とかというのは別ですけれども、業者とか、いろいろな利害関係があるわけです。母子手帳に、2歳まではスマホは見せないとか、どうですか、古野先生、こういう働きかけが……。

古野これも、特に乳児に対しての働きかけは重要なので、今、テレビなどは見せないようにというのが母子手帳に書かれるようになっています。だから、そこにさらに踏み込んで「スマホは」というのも入る可能性はあると思います。

それと、私たち子どもとメディアがこの間のフォーラムの最後に、提言を出そうということになりました。少なくとも業者に対しては、私が今日お話ししたような、「安全性は保証されていません、証明されていません」という文言を書くようにしてと。

タバコは書かれていますよね。あれはエビデンスがないときから書かれていました。エビデンスがなくても、書いておくことは企業側として自社を守るために必要なのです。企業側にとって、それはデメリットではないです。だって、スマホを赤ちゃんが使って企業に何かメリットがあるかというと、全然ないわけです。だから、私は、書いてくれる公算は結構あるのではないかと実は思っています。そういう働きかけを、いろいろなところから声を上げていかないといけないと思います。

村田我々小児科医も全く何もしていないわけではありませんで、大きな団体としては、日本小児科学会、日本小児科医会、日本小児保健協会、それから、今は日本小児外科学会という4つの団体が日本小児医療保健協議会というのをつくりまして、そこで、スマホやニューメディアに対する問題の提言も今から3年ほど前にしていますが、この発信がどういう形で広がりを見せるか。

日本小児保健協会のサイトへ行っていただければ、今の4つの団体が、こういう問題に対してどういうふうに我々は考え、今後、どういう働きかけをするかという提言を載せていますので、参照していただければありがたいと思います。この提言に実効性を持たせるようにする努力も、もう少ししなければいけないと思っています。

前川それから、親と子どもの組み合わせによって子どもは育つわけです。ですから、そこらのことはケースバイケースで、なかなか一概に書けないんです。その辺を単純に書いてしまうと差し障りがあるので難しいけれども、しかし、いずれは、アメリカ小児学会でもやっていますから、そこらのことぐらいは行くんじゃないですかね。