4.総合討論(6)

前川では、僕のところへ来た質問です。

「0~1歳の子どもを預かる保育園で、保育士の子ども担当を決めて特定したほうがよいか。担当を決めずに、複数の保育士が1人の子どもにかかわってもよいか」という質問です。

これは私たちがやっているタッチケアのことで、子どもに乱暴したり、昼寝をしない子どもにタッチケアを昼寝前にやるわけです。そうすると、子どもの寝つきとか乱暴が少なくなる。これ、面白いんですよ。それで、そういうのは同じ保育士のほうがいいです。ですが、そういう問題行動のない人たちは誰が見ても同じだと思うので、特に必要な、そういう問題行動のあるお子さんは、むしろ特定の人がかかわって、タッチケアなり触れ合いを重点的にやれば、自然とよくなります。だから、これはケースバイケースです。

それから、「スマホを長時間使うことで視力が弱まるなどの悪影響は、明らかに証明できると思うので、その点からも日本小児科学会などはもっと親たちに訴えていくことはできないのか。産婦人科などとも連携し、親へ今日のような話をする機会はつくっていけないのか。幼児教育者だけに任せるのではなく、もっと医学の世界から発信していくべきではないかと思うのですが」と。これは我々、やっているんですよね。ですけど、なかなか……。

古野日本小児科医会がこのメディアの問題は随分前から取り組んでいますけれども、ここ2年ぐらいで、小児科医だけではない、日本医師会が入ってきました。それから、産婦人科のほうの産科医会も入ってきました。眼科とか、体の運動器のほうの整形の先生だとか、そういう先生方も入ってきています。それから、もう少し後の世代になりますが、イヤホンを長時間つけると耳が悪くなるんですね。耳鼻科の先生方も入ってきています。

医療分野の方たちががっちり手をつないでいく。今はまず、お互いがどういう認識をしているかという事実確認から始めているようです。ここからどう動いていこうかというのはまた次の段階になってくると思いますけれども、そういった動きは始まっています。

保育士さんとか幼児教育の方々とも、私たちは足並みをそろえるようにしていますので、ぜひパートナーとして一緒に動いていってください。そういうことをご紹介しておこうと思います。私たちのNPOも実はそれに陰ながらご協力しております。

それから、先ほど、サルの話が出ました。実は私たちは先々週、全国フォーラムを開いたばかりで、そこに京大の総長、山極壽一さんというゴリラの研究家をお招きして、サルと類人猿の違いなどをお話ししてくださったんですね。サルは、子どもと目を合わせないんです。サルはもう目を合わせた瞬間に、「どっちが上、どっちが下」しかないのです。

ゴリラは家族をつくりますし、目を合わせるんです。ただし、目を合わせるのは基本的に20㎝くらいのこの距離です。至近距離なんです。それから、ゴリラは赤ちゃんを下ろさないです。1年間ずっと抱いたまま。人間がむしろおかしいのです。人間はあれだけ弱い赤ちゃんを、なぜか背中をベタッとつけて床に置いてしまいます。とっても不思議ですよね。人間は、どうも集団の中で子どもが育つというのが当たり前になったサルの一種のようです。

ところが、今、お母さん方が、サルだとかゴリラになってきているんですね。子どもが泣いたら、どうしていいかわからなくてずっと抱いている。腱鞘炎になってしまったというお母さんを見かけたことありません? 実際、ずっと抱いているんです。ゴリラじゃないのだから、無理。あんなにゴリラは体がでっかいのに、赤ちゃんは500グラムぐらいしかないそうです。だから、1年間抱いていても大丈夫です。体もがっちりしていますし。ところが、3キロ以上もあるような赤ちゃんを人間のお母さんがずっと抱いている。それはおかしくなります。もともと床に置いて育てるように人間の体はなっているわけですから。

それから、赤ちゃんと目を合わせなくなっていますね。サルになっちゃっている。そういうことなのです。その辺が人間としての育ちにすごく大事です。そこから言うと、人間の赤ちゃんというのは、どうも、いろいろな人に顔を覗き込まれながら育つようにできているらしいということです。安定した第一養育者の次は、周囲にそれを支える人たちがたくさんいるというのが必要な環境。母子密着の母子カプセル状態がどうもよろしくないというのは、多分そこからなんですね。でも、現実は、母子カプセルになっていますよね。それに対してどうしたらいいかというのを、私たちはうまく考えていってあげないといけないのだと思います。