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子どもは、社会で育てるみんなの宝物

東京家政大学ナースリールーム主任 井桁 容子先生

悲しい親と子の頑張り

私が出会った親子のエピソードを通して、これからの子育て支援の在り方をさらに深く考えてみたいと思います。

地域の母親向けの子育て講座が終わったあと、「自分の子どもがかわいく思えないのですが…」という相談を受けました。その時は、自信がなくて当たり前ですよ。ありのままのお子さんを認めて面白がってあげるだけで、子どもは自分の力で育っていきますから大丈夫です。というようなことを伝えると、涙ぐみながら「なんだかほっとしました。頑張らなくていいんですね。」といってくれたので、私の思いは伝わったようでした。しばらくして、その母親から手紙が届きました。

私の姉と母のことで、相談があります。

私の姉は、わたしと違って成績が良くいつも優等生で、親にとって自慢の子どもでした。父が医者なので、姉にも医者にならせたかったようで、そのためにはクラブ活動には入らずに塾にいって勉強するようにと言われ、姉は約束を守って勉強一筋に頑張ってきました。そして、見事医学部に入り、医者になりました。一方、私はというと、同じように頑張るようにいわれたのですが、親の言うことをきかずに運動部に入り、大学も文学部に入りましたので、両親は気に入らないようでした。エリートコースまっしぐらの姉が、結婚をして子どもも生まれたのですが、仕事のことで悩み、精神状態が不安定になり離婚をして実家に出戻ってしまいました。私はといえば、会社務めをして職場結婚後、退職して専業主婦になりました。妊娠が分かった時に、産前産後は助けてほしいと母親に連絡をしたら、「親の言うことも聞かずに、好き勝手なことをして生きてきて幸せになっているあなたはずるい。困ったとしても、そんなの自業自得というものよ。それに比べてお姉ちゃんは、親の言うことをきいて一生懸命頑張ってきて、不幸になっているなんてかわいそう。」と言われたのです。悲しかったです。姉と母の関係は、今でも一卵性双生児のような密着で異様に思い、心配なのですがだいじょうぶでしょうか?そして、本当は、私も傷ついているのです。もうすぐ40歳にならんとしている大人でありながら、母親に愛されている姉のことがうらやましくてたまりません。私もまだ、自分の母親に愛されたいと思っています。そして我が子が愛せないのです。

頑張って報われない人をみたら誰でも同情したくなりますが、しかし、子どもが親の期待に応える頑張りの姿をみると、親の方にどこか罪深さを感じるのはわたしだけでしょうか?自分の思いを押し殺し、親の評価を気にしながら頑張り続けることで得たものが、必ずしも本当の意味での自分自身が求めていた幸せや、自信や自己肯定感につながっていないのです。その時代(今も)、日本の社会は受験戦争と言われていた時代、つまり学歴偏重社会でした。親がそのことに敏感に反応することは、ある意味で仕方がなかったことと言えるでしょう。そして、夫が会社に取られ、育児を自分一人に任された専業主婦たちが、自分の力を評価されるのが子どもの出来栄えだとすれば、力のある女性が全力でわが子に対して目に見える良い結果が出るよう頑張ることも当然です。そのような意味で、この手紙の長女は親にとっては共に戦った戦友でもありますから、労り合うことになるのでしょう。一方、自分の思いをとおした次女のほうは、親の期待に応えなかった裏切り者扱いになってしまっています。そして、大人になって夫に愛され子育てをしているのにもかかわらず、自分の親に愛されていないことで自己肯定感が持てなくて、わが子も愛せず苦しんでいます。

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