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子どもは、社会で育てるみんなの宝物

東京家政大学ナースリールーム主任 井桁 容子先生

専門的な知識をもった子育て支援

なんとも切ない世代間にわたる問題です。このことは、当事者たちにはどうにもなりません。なかなか家庭内で起こっていることを俯瞰する視点は持てないからです。その連鎖を断ち切るとしたら、今、子育て支援に関わる専門家たちがこれらの社会的背景を理解して、子育て中の親のありのままを受け止め、親自身の自己肯定感を支えることから始まらなければならないのだと思います。そして、もともと人間の子どもは、母親だけで育てるようにはうまれてないのです。人間の赤ちゃんの特性として、仰向けでいられる、ほかの霊長類と比べると皮下脂肪が多い、未熟な状態が長い、抱かれると目を合わせる時間が他の動物よりも圧倒的に長いなどは、どれも母親以外の人とも関わりながら育つようにできているからなのではないかと言われています。チンパンジーとDNAの塩基配列が98.9%も同じなのですが、チンパンジーの赤ちゃんは自分で母親にしがみついていて、自力でおっぱいを飲んでいます。3・4歳になるまで母親にしがみついているので、チンパンジーの赤ちゃんは皮下脂肪が少なくても大丈夫なのです。ところが、人間の赤ちゃんは抱かれなければそのままです。だから、皮下脂肪が多くないと自分の体を守れないのです。何のために離れるようになっているかというと、いろいろな人が関わることで、人間になっていくためではないかと言われています。また、アロマザリング(母親以外の育児行動)は、霊長類には多く見られるようですが、特にひとのアロマザリングは優れていると言われています。人類誕生のころから、みんなで助け合って育ててきたと現在は考えられているようです。ですから、今の日本の社会が、母親一人に、しかも密室で子育てを強いていることは、人類の歴史から言って不自然なことなのです。当然、母子のつながりが軸になっていくことは否めませんが、それだけでは健康に育つことができなくて、いろいろな人との関わりが人間らしさの育ちに重要なのです。子育ての支援にかかわる者は、それらのことを正しく理解して子育て世代の支援にかかわっていくことが大切です。

さらに、文明は人間の手足に代わって道具をつくり、乗り物をつくり、考えること感じることを自分の代わりにしてくれるコンピューターを作り出しました。手間暇を省き、手早くできること、すぐに結果が出ることを良しとした文明社会に、生まれた時から囲まれて育ってきた今の子育て世代が、曖昧で手間暇がかかって、正解のない子育てにむずかしさを感じることも当然です。みんな良かれと思って、頑張って便利な社会にしてきたのですから、誰かを責めるわけにはいかないのです。大事なことは、間違えたことに気づいた人から、修正を加える勇気と判断力と行動力です。『君子豹変』でというところですね。これからの日本を見据えて、社会の宝物の子どもたち一人ひとりのその子らしさを、面白がって育てていくことを親だけに任せないで、みんなでつまり社会全体で育てていくという意識の子育て支援が今、直ぐに必要です。

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