第33回母子健康協会シンポジウム 「食物アレルギーのお子さん達が健やかに育つように…ガイドライン作成を機会に」
1.「食物アレルギーへの対応の最近の進歩」
あいち小児保健医療総合センター 内科部長 伊藤浩明先生
食べられる量をだんだん増やしていくことは、自然に行われる方もいらっしゃいますが、やはり主治医の先生に診断してもらって、安全を確認しながら、どんなペースで増やしていくのか、きちんとした指導を受けながら進めていただく必要があると思います。
それに向けて、一番極端な、今、挑戦しているのが「経口免疫療法」という治療です。経口免疫療法という治療は、本来でしたら、とても完全除去を続けていただかないと危ないという方を対象にして、ごくわずかな量のアレルゲンから食べ始めて、それを慎重に計画的に増やしていこうという治療です。まだまだ、これは治療とまで言えなくて、一部の専門施設で研究して、「どうやったら安全な治療と言えるか」ということのデータを蓄積しているところです。
海老澤先生のご施設が日本で先頭を切って走っていますし、私たちも、それを目標にしながら治療をしているわけですけれども、いろいろなことがわかってきました。びっくりするほど食べられる人もいる。1年たったらほとんど解除できた人もいるけれども、一方でどうしても増やせない人もいる。どうしても増やせないということは、その方たちは途中で事故を起こしているわけです。ちょこちょこ症状が起きてしまうから、結果的に、どうしても増やせないところにとどまっているわけで、その方たちは決して安全な生活はできていないのですね。常にエピペンを準備して、いつでも万一のとき対応できるようにという気持ちで治療を進めているので、重症の方に対する免疫療法というのは誰にでもできるわけではなくて、かなり慎重な構えの中で進めています。
でも、そういうことをやることで、随分いろいろなことがわかってきて、一般の方たちの食事指導も、私たちは随分自信を持って、これだけは食べていいんだよとアドバイスできるようになってきたと思っています。この方向はおそらく今後ますます加速していって、いかに早いうちから、いかに安全に、わずかな量でもいいから食べ始めていただけるか、というところに向かって進んでいくのではないかと思っています。
最後の一つは、「誘発症状への備え」ということです。今までお話ししたように、安全な食事をするということがもちろん一番大事で、皆さん重々気をつけていますけれども、でも、事故というのは起きるものです。どんなに注意していても、取り違いの事故というのは必ず起きる。必ず起きることを前提にして、「起きたらどうするか」ということをきちんと決めておくことがもう一つの重要なセーフティネットになるわけです。誤食してしまったことだけを責めても、それはどうやってもゼロにはならないですね。
ですから、いざというときの備えをきちんとつくっておくことは、軽い方から重い方までどなたにとっても、とても大切なことと思っています。その一番典型的というか、一番象徴的なお薬がエピペンです。アナフィラキシーという強い症状が起きたとき、病院に行くまでに自分で自分に注射をして、一番危険な状態を早く脱出して、そこから病院まで行きましょうと。これが、強いアレルギーを持ったお子さんにどれだけきちんと普及できるか、あるいは、いざというときに思い切って使っていただけるかということが、今後、まだまだ社会的に整備していくべきところではないかと思っています。
2年ほど前に試算してみたことがありますが、アナフィラキシーという危険な症状を起こす方は0・14%、1、000人のうち1人か2人いると言われています。その方の中で、当時エピペンを持っている方は、よく普及している地域で10人に1人でした。これが1年前、2011年から保険適応となったおかげで、昨年1年間、随分処方量が増えてきていると思います。皆さんの勤務されているところでも、「エピペンを持っています」という子どもさんがだんだん発生してきているのではないかと思います。
そういうことを含めて、緊急時の対応は割り切ってきちんとつくっておく。保護者の方はもちろんですが、皆さんの立場からもそういうことをきちんと整備しておくということが、もう一つの重要な対応になると思います。
この点については、次のお話で海老澤先生からも詳しくお話があるのではないかと思います。
以上で私の担当の話を終了させていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)
前川 どうもありがとうございました。今の先生のお話で、特に内容がわからなかったことがありますか。非常にわかりやすく話していただいたので。よろしいですか。それでは次に、海老澤先生の「保育所における食物アレルギーの対応」ということでお話をいただきます。
海老澤先生、よろしくお願いします。