第33回母子健康協会シンポジウム 「食物アレルギーのお子さん達が健やかに育つように…ガイドライン作成を機会に」
2.「保育所における食物アレルギーの対応」
国立病院機構相模原病院臨床研究センターアレルギー性疾患研究部 部長 海老澤元宏先生
もう一つ、どういうふうに子どもたちに給食を提供するかということに関して、管理指導表に関連してお話ししますけれども、資料1の⑨、「共通献立メニューにするなど食物アレルギーに対するリスクを考えた取り組みを行う」。この共通献立メニューとは何かというと、例えば卵、牛乳、小麦が原因として多かったら、そういう食材を使わないで、みんなが食べられるようなものをつくるというのは、やろうと思えばできるんですね。和食にすると大体それをクリアできます。もちろん、栄養素とかいろんなことを考えなければいけないですけれども、それによってみんなが同じものを食べられる日は、週に1回とか2回とか、つくれますよね。
そういう発想が必要だと思うし、この間、調布の事例で、「チヂミに何でチーズを入れなければいけないのか」という疑問がありました。あれは、1日のカルシウム所要量をマッチさせるために無理やりそこに入れてしまう、そういうことがよく行われます。乳製品を与えるのだったら、直接チーズを食べるとか、牛乳を飲むとか、ヨーグルトを食べるという形のほうが、きっとリスクは減ってくるのではないかと思います。
「隠れたアレルゲン」と私たちは言いますけれども、ああいうところに隠し込むと、自分も食べたことを認識できなくて、かつ、対処が遅れ、そういう問題につながっていくことになります。
最後の10番目、「食物アレルギーに関する最新で、正しい知識を職員全員が共有し、記録を残す」と書いてあります。先ほど、伊藤先生からは非常に最新の話がありました。私たちも実際の診療は伊藤先生と大体一緒のことをしています。ただ、私たちが保育園とか学校に対して、食物アレルギーのお子さんの除去食の指示書を出すとき、どういうふうに考えているかということを是非知っておいてください。
必要最小限の食物除去にとどめるというのは、家で母親が管理しているときの話であって、経口免疫療法をやりながら食べさせていて、症状が出ないというのは、家での話です。保育園、保育所あるいは学校は、親が見ているわけではありません。第三者が、そのお子さんが安全に暮らせるかどうかということでお預かりしているわけです。そうしたときに、家でやっていることと同じことをお願いしますと保護者が言ってきた場合、皆さんは何と答えるべきか?それは、そこまでやってはいけない訳です。
私たちは、治りかけのお子さんには、「全部治ったら解除しましょう」と申し上げます。例えば牛乳アレルギーの場合、25㏄くらいまでの許容量があったとします。そうすると、乳製品以外は乳加工品というのは大体食べられます。では、それを保育園でやっていいのか、ということになるわけです。風邪を引いたときとか、お腹の調子が悪くなったとか、食べた後に暴れたとか、そういう状況では、100%症状が誘発されないという保証はどこにもないですね。
腹立たしい指示書の中にもう一つ腹立たしいのは(笑)、乳の加工品は食べられる、乳製品は食べられないとか、そういうのを一々、品目ごとに○をつけろと言ってくるんですよね。〝冗談だろ!〟と、僕らから見ると思うわけです。例えば反応閾値というのは決まっていて、ここまではいいと言うのは、もちろん医学的・科学的にはセットできます。でも、それを何故、保育園でやらなければいけないのか?これは、絶対にやってはいけないことだと私は思います。それもこのガイドラインに書いてあります。
皆さん、考えてみてください。卵、牛乳、小麦の食物アレルギーの患者さん、3つ持っている人が3人いたとします。それで、1つに3通りの対応があったら、何通りの食物アレルギーの対応をしなければいけなくなると思いますか?皆さん、数学はもう忘れてしまっているかもしれないけれども(笑)、組み合わせによってこれはものすごいバリエーションが出てくるわけです。
もし園長先生が、保育園に入る方に、「家と同じことをやりますよ」と言って安請け合いしていたとしたら、それは皆さんにとってとんでもないことですよね。27通りぐらいの対応をしなければいけない。それも毎日、間違いなく。できますか?できるはずないですよね。自分も絶対できないと思います。そのお子さんたちに、その何通りの対処を間違えて与えてしまうなんていうのは必ず起きます。ヒューマンエラーというのは、この間の調布の事件でもそうですけれども、絶対に正しくできるなんてことはあり得ないと認識してください。これは、保育園でお子さん方を預かるときに、宣言しておいたほうがいいぐらいです。極端な話を言えば。
食物アレルギーのお子さんが入ってきます。我々としては、こういう方法でこういうやり方で最善を尽くします。万が一症状が出たときにも、こういうふうにガイドラインに則ってきちんと対処します。ただ、100%というのはもちろんないので、何重のチェックも入れて、間違いが発生しないような取り組みは保育園で行っていますとか、あるいは、緊急時のお母さんとの連絡も密接に取れるようにしておいてください。また、緊急時の搬送先の医療機関をきちんと決めて対応させてください、というふうにすべきなのですね。でも、どうですか、皆さん。お預かりするときに、うちは100%大丈夫ですと言っていたりとかしませんか?大丈夫ですか。そんなことを言ったら自分たちの首を締めますよ。