それから、いつものシステムとして、その子の給食は調理室からトレーが違うものに乗って来るわけです。そういうお子さんに対して、みんなと同じようにおかわりをするシステムを許容すること自体が、リスクを一段上げますね。だから、リスクマネージメントというのは、うまくいくことを前提にして考えるのではなく、うまくいかないこと、親と先生がそこで漏れるということを想定する。おかわりをするというのは、例えば調理室に行って、調理師や栄養士が確認した上で渡すとか、そこに安全のチェックポイントを幾つかつくっておかなければ多分ダメだと思います。それと、そういうお子さんなので、学校によっては、最初から山盛りで出してあげて、おかわりをする必要がない状態にしておいてあげる。それで残してもしょうがないだろう、という形の対応もあると思います。
あと、学校でのそういう緊急時の対応というのは、前に姫路などでも事件がありましたけれども、そういう事件が起きると、兵庫県は、全県挙げてきちんとエピペンは使っていこうという動きになりますし、ガイドラインの運用がちゃんとやられるようになったわけです。だから、今回のこういうような事例があって初めて動くというのは、本来の姿ではないと思います。
ただ、今回のお子さんの事例も私たちは非常に重く受け止めて、学会としても、あるいは文部科学省、厚生労働省としても、こういう事故が二度と起きないように何とかしていきたいと考えていまして、そのためにはやはりガイドラインの普及です。普及・啓発、運用、それが基本中の基本です。
ぜひ皆さん方にも、今日こういう機会があったので、園長先生とか、市とか、そういうレベルでないと、なかなかそういうのをやっていこうという話には行かないと思いますけれども、皆さん方から、ガイドラインがあってこうなのですよということを上の方に上げていただくと、また状況は変わってくるのではないかと思います。
細かい質問はほかにもいろいろありましたけれども、あとは、伊藤先生、前川先生と雑談しながら話をしていったらいいかなというふうに思うので、よろしくお願いします。
前川今の海老澤先生のお話を含めて、特に聞いてみたいという方がいらしたら、どうぞ。どんなことでも構いません。海老澤先生、今、ガイドラインの話が出ましたけれども、私が調べたガイドラインのなかで保育園で使用するのに適当なガイドラインはどれですか、
海老澤保育園の方でしたら、保育園の管理指導表とセットになっている、「保育園におけるアレルギー対応の手引き」が一応保育園向けに作ってあるものです。日本保育園保健協議会では本で売っていますけれども、厚労省のホームページからは無料でPDFファイルでとれるので、これは保育園向けだと思います。
前川ということでございます。もし興味がありましたら、お買いにならないでダウンロードをして、必要なところだけご利用いただければと思います。よろしいですか。
ほかに特に何かございますか。
伊藤先生、一つ、こちらから伺っていいですか。
前川どうぞ。
伊藤
エピペンというのが今日の大きな話題になっています。かなり普及してきていると思いますが、皆さんの勤めておられる保育園、幼稚園で、実際エピペンの処方を受けているお子さんが在籍している方というのは、どのくらいおられますか。手を挙げていただけますか。
(挙手あり)
伊藤このぐらいですね……。
前川少ないとするか、多いとするかですね。
伊藤
ありがとうございました。体重が15㎏を超えると処方可能という条件がありますが、でも、保育園の3歳以上で、多くのお子さんは15㎏をクリアしていると思うんですね。
その中で、園に直接預かっておられる方というのはいかがですか。いらっしゃいますか?
前川いらっしゃるね。
伊藤いらっしゃいますね。ほとんどの園はそんな感じなんですね。
前川5人、6人ぐらい。
伊藤そうですね。ありがとうございます。保険適応になったおかげで、それまでは1本1万5、000円という自己負担だったのが、この年代のお子さんは、恐らく皆さん、完全に無料で補償でしょうから。それでも、気楽にたくさん処方していいとは思っていないので、私自身は、家庭用に1本と、園や学校で1本預かっていただけるのだったら、その分をもう1本という、2本まで限定で処方するつもりです。これは別に決まりはなくて、各施設の考えです。
今回の事故のこともあって、エピペンを準備したいと考えられる保護者の方がきっと増えてくると思います。基本的には、園に預かって、万一のときには、先生方が「あそこにある」ということがパッとわかることが必要だと思います。
もう一つは、救急車を呼ぶタイミングとエピペンを使うタイミングということがあります。救急車を呼んでそれが到着するまで、どのぐらいですか。東京都というのは道が混んでいるから……。
海老澤6、7分。
伊藤そうですか。全国平均で6分ぐらいです。そのぐらいで救急隊は来るんですね。救急救命士の資格のある人が乗っていれば、その人たちは、ご本人のエピペンがあれば、業務として使えます。ですから、危ないと思ったら真っ先に救急車を呼ぶ。それまでの待っている5分、6分の間にどうしても使わなければいけない場面は、皆さんから見て、どう見ても子どもの状態がおかしい、声をかけても返事をしないという状態だったら、待てないから使おうという決断をされるのではないかと思います。
これは、例えばプールで溺れたということと一緒ですよね。プールで溺れた、救急車を呼んだ、でも、息をしていなかったら人工呼吸をしますね。それと同じ感覚がきっとあると思うので、皆さんが本当に使わなければいけない場面というのは、「どう見てもこれはおかしい」「危ない」というときです。迷っていて、子どもに、「大丈夫?お腹痛い?」「うん、お腹痛い」「まだ大丈夫」と言っている間は待てます。本当はそこで使ってほしいのですけれども、でも、待てますので、救急車をできるだけ早く呼ぶことを前提にして、エピペンへの対応も考えていただければいいかなと思います。
今回の事例は本当に重くて、そこの10分間ぐらいのタイムラグが最終的には運命を決めてしまったわけです。振り返ってみれば、「あそこで使っておけば」ということが、記事を見てそういうふうに思いますけれども、でも、それが一般的ではないですよね。いきなりバタッと倒れることはなくて、普通は猶予があります。マニュアルとか何とかというよりも、皆さんが見て「これはおかしい」という、人間としての感覚のほうが大事なのではないかと思います。
脅しではないですけれども、使わなかったら100%責任を問われます。使わなかったことに対する責任は100%問われます。使ったけれども、使ったことに対する責任追及はきっとないと思います。仮にフライングして早く使ってしまった。実はアナフィラキシーではなかった時でも、10 分、15分ドキドキするぐらいでおさまりますので、使ったことに関して責任を問われることはないはずです。世の中の見方もだんだんそういうバランスになってきていますし、エピペンを持つ方も増えてくると思いますので、ぜひ、そんな視点で考えていただいたらいいかなと思います。そういえば、先日、私立の学校の先生の講習会をやったら、集まった先生の3分の1ぐらいが、「エピペンを持った子どもが在籍しています」と言われました。私立の高校まで入っていますから、1校あたりの人数が多いのですが、そのぐらいの年代には随分普及してきたんだなというふうに感じました。
前川ありがとうございます。
少し時間がありますので、感想でも質問でも結構ですから……。今日は僕の講演をうんと短くしてこの時間にとったのですけれども、せっかくの機会なので、何かありましたら、どうぞ。