寄稿 「こどもの発熱の原因とその対処法」
九州大学大学院医学研究院 成長発達医学分野 小児科教授 原 寿郎先生
体温の調節は熱の産生と放散によって行われ、この両者の機能の均衡が保たれてはじめて体温の調節が円滑に行われます。熱は体内における食物の化学分解によって産生されます。もっとも多量の熱を発生するのは骨格筋で、安静時において総熱量の約60%は骨格筋より発生します。次は肝臓で、20%強です。熱の放散は、輻射(放射のこと)、伝導、対流、蒸発等によって起こります。輻射によって失われる熱量は全放散量の約60%です。蒸発には不感蒸泄と発汗とがあり、不感蒸泄(自分で感じることなく気道や皮膚から蒸散する水分)によって失われる熱量は全放散量の20〜30%です。発汗があれば多量の熱量を失います。対流・伝導によっても全放散量の10%強の熱が失われます。
体温調節には、中枢神経系と自律神経系からなる神経系の統合ネットワークがその役割を果たしています。なかでも視床下部に体温調節中枢があり、皮膚の温冷受容体から伝えられる末梢神経からの情報と、視床下部を通過する血液温度からの情報により、正常体温のセットポイントを設定しています。自律神経を介して体温調節作用が行われ交感神経が興奮すると、皮膚血管の収縮によって熱の放散が減少し、新陳代謝の亢進、戦慄によって熱の産生が増加し体温が上昇します。一方副交感神経の興奮状態においては末梢血管拡張、発汗促進、代謝抑制、呼吸速迫を促し体温の低下を招きます。