2.戸外環境で大切なことは多様性
これらの全国調査の中で私どもが明らかにしてきたことは、園庭があることは重要であり広い方がよいが、園庭の広さよりもそれ以上に、多様な植栽や水場など環境の多様性があるほど、保育者の園庭に対する満足度は高いということです。具体的に私どもが使用した環境多様性の指標としたのは以下のような場がいくつあるかということです。皆さんも園庭をみて、どんな空間がどの程度どのようにあるかと考えてみられてはどうでしょうか。
表1.園庭環境多様性指標物理的環境(秋田他、2018)
上記表1に示された空間の中でも、さらに植物や生物の多様性を意識的に計画的に準備してみること、また園庭で遊びの中で自然に出てくる動きがどれだけ多様であるかを見取ること(たとえば立つ、座る、寝ころぶ、起きる、回る、転がる、渡る、ぶら下がる、歩く、走る、はねる、跳ぶ、登る、下りる、這う、よける、すべる、持つ、運ぶ、投げる、捕る、転がす、蹴る、積む、こぐ、掘る、押す、引くなど)が、子どもの動きを専門家として保育者が捉えることにつながります。また築山や穴ほりなど平面の高低差の工夫、砂場でも砂の種類の多様性、様々な遊具、道具などの工夫によって、今ある園庭がさらに多様となることが子どもの経験を豊かにしていくことを私たちは実際に園に関わるアクションリサーチやB研修などをさせていただき実体験をしてきました。環境の多様性によって、子どもの戸外環境としての園庭は、より意味ある豊かなものとなると言えるでしょう。また戸外環境としての園庭は保育室と異なり、担任一人で計画や工夫するというよりも園の皆で語り合いチームとして長期的な視座をもって取り組むことが必要となります。それがむしろ園の中の対話を深め同僚性や絆を強くしていくことで、子どもたちにとってもよりよい経験を生むものとなるということもできます。
新型コロナ禍において、室内で過ごす時間が多くなった園やご家庭も一時的に多くなりました。私たちの調査では、ご家庭では一時期2時間ほど動画等を見る時間が増えたという報告もありました。しかし昨年度の緊急事態宣言後は、密にならず遊べるようにと、積極的に戸外の環境を活かす園も数多くありました。しかしながらその一方で、たとえば公園や大学のキャンパスを利用していた園の中には、外部者入構禁止等で子どもたちが遊び場を失ったという保護者の声も聞こえました。筆者らは実際にキャンパス入構制限で遊び場を失った大学周辺の園の声の聞き取り調査も2021年に実施しました。そこでも保護者の方からキャンパス等の中が安心して過ごせる戸外環境であり運動等と共に虫や鳥などの生物と出会う経験を保障している場であり、休日の家族の憩いの場となっていたことも見えてきました。
日本では、幼稚園ならびに認定こども園には園庭の設置基準がありますが、保育所にはありません。またそのあり方の詳細が決められているわけではありません。しかし国際的にみると、アメリカ・ノースカロライナ州やカナダ・トロント州、ドイツ・ベルリン州、スウェーデン・ウメオ市などさまざまな自治体が独自に、園庭指針や指標などを設置していたりもします。日本でも、園庭の質を構造的に捉え、そこでの子どもの経験の質を問うために、モニタリングをどのようにしていくのかということが子どもの発達を保障していく上で大事ということが言えるでしょう。では具体的に子どもにとって戸外環境はどのような発達の意味を持っているかを次に見ていきたいと思います。
【引用参考文献】
- 秋田喜代美・辻谷真知子・石田佳織・宮田まり子・宮本雄太(2018)「園庭環境の調査検討―園庭研究の動向と園庭環境の多様性の検討」東京大学大学院教育学研究科紀要,5743−66.
- 秋田喜代美・辻谷真知子・石田佳織・宮田まり子・宮本雄太(2019)「園庭環境に関する研究の展望」東京大学大学院教育学研究科紀要、58,495−533.
- 秋田喜代美・石田佳織・辻谷真知子・宮田まり子・宮本雄太(2019)『園庭を豊かな育ちの場に:実践につながる質の向上のヒントと事例』.ひかりのくにp128.
- 辻谷真知子・秋田喜代美・宮田まり子・石田佳織(2021)「未就学児保護者の近隣戸外環境活用に関する認識―大学キャンパスの入構制限に着目して―」国際幼児教育学会,第42回J17,66−69.(オンライン)
- 宮田まり子・秋田喜代美・辻谷真知子・石田佳織(2021)「保育所近隣にある大学構内の入構制限による影響:―コロナ禍における都市部保育の実態調査から見えた構造的課題」国際幼児教育学会第42回,J33,126−129.(オンライン)