新型コロナ感染症と子どものこころ(2)

あと、ソーシャルディスタンスを取りなさいということが言われるわけですよね。特に小学校1年生、中学校1年生なんかは、あるいは転校してきたお子さんなんかとお話しすると、結局新しい学校が全然からず、7月に入って、やっとみんなと会えたみたいなところもありましたので、そういう仲間づくりが遅くなるということもあったかもしれません。

孤立化ということは、こういう社会の不安があるとき、とても大きな問題になるだろうと思います。なぜならば、人間は危機に瀕したときには、みんなで寄り添って何とかそれから脱出しようとするわけですよね。ですから、東日本大震災の後などは、「絆」という言葉が盛んに言われた時期があったと思います。やっぱり人というのは群れを成す動物ですから、群れを成して危機を乗り越えようというのが本来なわけです。そのような状況にありつつ孤立化させられてしまう状態というのは、非常にパワーがそがれるといいますか、どうしていいか分からなくなるというところにつながっていくんではないかなと思います。

それから無力感ですね。特に子どもたちは、上から言われるだけ。なぜかということもよく分からないし、ただ、こうしなさい、ああしなさい。特に後でお話ししますけれども、小学校なんかでは、ちょっと近づくだけで、ほら、離れなさいみたいなことを言われるわけですよね。自分たちではどうしようもないという無力感ですね。それが結構大きくこの背景にはあるんではないかなと思います。

もう一つは、家庭内でのいら立ちのぶつけ合いですね。先ほど言いましたように社会全体が非常に不安になっていらいらしてくる。どうなるか分からないというのは、どうしてもいら立ちを伴いますので、それが子どもにもぶつかっていくということになりがちです。そして、大抵お子さんたちも、親とけんかしたなら、友達とちょっと話して少し気分を落ち着けたり、ちょっとおうちを出ていって、友達と遊んで気晴らしするといったことが、今まではできていたのが、なかなかできづらくなっているということもあります。結局LINEとかSNSに頼ってしまうということになると、今度、親御さんのほうは、SNSばかりやっていてということで、またそれがいら立ちのぶつけ合いにつながっていくというような悪循環になっているケースもあります。

また、元々家庭に居場所がない、あるいは、コロナの問題で家庭に居場所がなくなってしまったお子さん。つまり、先ほどのいら立ちのぶつけ合い、それからお父さんがずっとうちにいるというようなことで、居場所がなくなってしまった子ども。外の居場所も失われているということになってきているわけですよね。もともと家庭に居場所がなくなった子どもたちが、いろいろなところでつるんで、外の居場所をつくっていたわけですけれども、それも失われていくということになってくるわけです。

自殺ということになると、最後はやはり有名人の自殺が引き金になるということも決して少なくありません。WHOのほうでずっと昔から、自殺の記事の取扱いというのは、あまり前面に出して大きく報道してはいけないということになっているわけですけれども、今回も何人かの著名な方々が自殺されたということが大きく報じられたということも影響しているかもしれないと思います。いろいろなことが影響して、この自殺の増加ということに結びついたんではないかなと考えています。

さっき孤立化というのが非常に重要な問題だよというふうにお話をしました。このスライドは親御さんからいいケアを受けて育った子猿さんたちは、何かちょっと危機状態になると、こうやって寄り添ってその危機から脱しようとするようなことが見られるということの写真ですね。ところが、寄り添う相手もいない、親もいないというようなことになってしまったお猿さんたちの孤立した感覚というのは本当にかわいそう。この写真を見ていても、涙が出てきそうになります。本当はこっちで、みんなで寄り添って危機を脱しようとするようなときに、寄り添う相手がいないというのは、人間にとってとても深い心の問題になってくると考えたほうがいいだろうと思っています。

国立成育医療研究センター、一昨年の3月まで、私はここに勤めていたわけです。ここの皆さんが早速子どもたちにウェブアンケートをして、どんなことが今、問題になっているかなと調べました。

国立成育医療研究センターの調査

これは、最初のアンケートの結果です。休校とかいろいろなことがあった時期に、自分や家族がコロナにかかることが心配であるとか、生活が苦しくなったとか、ゲーム・スマホの時間が増加した。コロナのことを考えると嫌な気持ちになる。当然なんでしょうけれども、いらいらするとか。全てこういう問題が増加しています。睡眠の問題があるとかいろいろな問題を子どもたちが持っているということも分かってきたわけです。特に一番下です。やっぱり家族のいら立ちのぶつけ合いですね。親からどなられる、たたかれるというのは小学校の低学年に多いということもあって、結構そういうことが出てきているという結果でした。