飛躍的向上の影に

華々しい進歩を見せた小児ALLの治療成績ですが、すべての患児が標準的な治療を計画通り受けたわけではありません。計画した治療の途中で何らかの理由で治療を中止した患児も多くいました。稀には、家族の方針なのか途中で治療に来なくなった方もいました。計画通りの治療をしない場合に、すべての方が再発するようであれば話は簡単なのですが、現実は異なります。

図1.2000年以前の米国のSt.Judeの小児病院のグループによる小児ALLの治療成績の変遷。約40年間で長期生存率が80%にまで上昇していますが、この間の抗がん剤は変化しておらず、投与量と投与方法のみの変化で向上しました。

図1.2000年以前の米国のSt.Judeの小児病院のグループによる小児ALLの治療成績の変遷。
約40年間で長期生存率が80%にまで上昇していますが、
この間の抗がん剤は変化しておらず、投与量と投与方法のみの変化で向上しました。

図1を見ますと、治療法が整備されていなかった時代であっても、長期生存率はゼロではありません。つまり、「弱い治療」でも治る患児が存在していたのです。上述のように、全体の治療成績の向上が「治療の強化」によってもたらされたと考えられましたので、振り返ればこれまでに治療を受けた患児の中に、必要以上に強い治療を受けた患児の存在がある可能性が推測できます。もちろん、あらかじめそれを区別できれば問題はないのですが、それは不可能でしたから防ぎようはありません。そのため、テーラーメイド治療などの表現で示される患者ごとの治療計画が求められる時代になると予測します。遺伝子解析などで手法がすでに開発されつつありますが、まだまだ発展しなければならない分野だと思います。