イントロダクション「2020年を振り返って」(2)

そして、4月7日から5月25日までは緊急事態宣言が発令されました。本当に社会的に大きな影響があったと思います。その中で、私ども医療もそうでしたけれども、保育、そういった部門はエッセンシャルワーカーということで、仕事を続けていただいたということになります。この頃には本当に不安なことが多くて、第1波による感染者の増加もありました。しかし、この時点ではあまり検査ができませんでしたので、体調不良でも陽性なのかもなかなか分からないというような非常に不安が多かった時期だと思います。また、有名人の方が亡くなられたりして、ああ、本当に昨日まで元気だったあの方が亡くなるんだということを身近に感じたということがありました。

それからまた、皆様方のところでも非常にお困りだったと思うのですけれども、感染予防の資材が足りなかったですよね。マスクがない。マスクがないなんてことは今まで考えたこともありませんでしたけれども、マスクがない。消毒薬がない。本当に困りました。

私たちの病院も、そういう意味では、いつこういう感染予防の資材がなくなるか、もう手に入らなくなるか分からないということで、手術等も延期するとかそういった対応をしていたということになります。それが去年の春だったのではないかと思います。

続いて、6月から10月、その頃になると、少しずついろいろな知識が整理されてきて、何となく対応に対する自信というのも出てきた時期ではなかったかと思います。社会が始動を始めてきて、そして海外に比較しても少ないということで、日本の奇跡などという言葉もそのときには使われたかと思います。そういう意味で、私たちのやってきた方法は正しいのではないかなという少し自信もついてきました。また、感染予防の資材も徐々に流通してきましたので、それまでのようにマスクがないので心配だ、マスクを洗って使わなければいけないとかそういったことは徐々になくなってきたと思います。

知識からくる「自信」も新型コロナで経験したこと

そして、ちょうどこの頃なのですけれども、後でもまたお話をしたいと思いますけれども、子どもが感染しにくいということが分かってきました。そして、子どもから大人に移す子どもの感染力もどうもそんなには強くはないのではないかというようなことも示唆される状況になってきました。つまり、インフルエンザのように子どもが感染症の感染の中心になるということがないんだということがコンセンサスとして世界的に明らかになってきました。それまではそれがはっきりしていませんでしたので、本当に世界中で学校を閉鎖するという状況でしたけれども、この頃から少しそういう流れが変わってきたと思います。

そして、必要な感染対策もだんだん標準化されて、そういう意味では皆様方のところでもいろいろなことが整理されてきたのかと思います。ただ、残念ながら1波が終わったらすぐにまた第2波が来てしまったということになります。

さて、11月以降、今日に至るまでですけれども、私たち、私どもの例えば医療の現場で言いますと、2つの気持ちがあるのかなと思います。

「疲労感」と「希望」新型コロナで経験したこと

1つはやはり疲労感。コロナ疲れともいう言葉もありますけれども、疲労感ともう1つは希望ではないかなと思います。ともかく第2波を乗り越えたときには、少しこれでしばらく休みが取れるんじゃないかと思いましたけれども、残念ながらすぐ第3波ということになってしまいました。感染対策を続けることへの疲労感というのは、恐らく保育の現場にもおありになるのではないかなと思います。病院でも正直そうです。

また、新型コロナ下での生活が子どもに与える影響も心配だという声が非常に大きくなってきました。

これは学校の場合ですけれども、学校にしばらく行かなかった子どもたちが、学校が再開されていろいろな心理的な影響があったようです。保育園でも私が十分に把握できていないと思いますけれども、いろいろな心理的な負担というのが子どもたちに与えられているのではないか。今回もそのような御質問も頂いております。本当にそこの部分も心配だという声が上がってきています。

ただ一方で、希望もありました。希望の大きなものは、やはり奇跡的だと思われるようなワクチンの開発が成功したということです。通常、ワクチンを開発するには数年単位でやって、そしてせっかく作ったのだけれども実は効果がないということもしばしばあります。それがワクチン開発のむずかしさです。

ですので、私は昨年の春に、これからワクチンを開発するんだというニュースを聞いたときに、いやそんなに簡単にできないからこれはなかなか期待はできないんじゃないかなと正直思いました。しかし、その後のニュースを聞いていきますと、ワクチンが完成し、それを試験的に使ったら発症の予防がされるというデータがどんどん発表されてきました。これは本当にすばらしいことだと思います。

そういう意味で、2021年に向けての流行の抑制の希望というのがここで初めて出てきたかなと思っています。