小児がん
小児がんと総称される病気の中で最も多いのは急性リンパ性白血病(ALL)です。小児人口(日本では15歳未満)1万人あたり年間に1人と言われる発症率は現在でも変わっていないと思います。小児人口が減少傾向にありますから患者総数は減少していますが、毎年確実に一定数の患児が診断されているのです。
図1.2000年以前の米国のSt.Judeの小児病院のグループによる小児ALLの治療成績の変遷。
約40年間で長期生存率が80%にまで上昇していますが、
この間の抗がん剤は変化しておらず、投与量と投与方法のみの変化で向上しました。
図1は20年ほど前に国際誌に掲載された小児がんの代表である小児ALLの治療成績のデータです。当時、世界一の成績を誇っていた米国の病院のデータですが、世界一の病院でも1981年当時の治療では長期生存者は53%でした。残念ながら日本では30~40%程度だったように思います。90%近くなっている現在とは大きな違いがあります。急性白血病は固形腫瘍と異なり、早期発見早期治療が奏功する病気ではないと言われています。そのため、どのようなタイプの白血病であるかの診断が重要で、確実に診断をつけてから治療を開始します。現在の治療は日本のどの施設でも同じで、全国の専門医が連携して治療にあたっていますが、40年前は地方大学病院などの施設によって異なる治療が行われていました。もちろん、基本的な治療方法は欧米の先端的研究結果を参考にしていますので、大きな違いはありませんでしたが、専門医は少なく、施設によって経験値が異なることはどうしようもありませんでした。
小児固形腫瘍で多いのは神経芽腫、肝芽腫、腎芽腫、脳腫瘍などです。これらは化学療法や放射線療法がよく効くので、小児外科や脳外科で手術を受けながら、小児科で内科的治療することが多くなります。手術については病気の進展度によって難易度も異なりますし、同じ病名の患児が同じ経過をたどるわけではありません。固形腫瘍は成人がんと同様に早期発見早期治療が成功に直結します。
いわゆる「がん(悪性腫瘍)」ではないものの、重症の血液の病気として、再生不良性貧血があります。この疾患は最近では造血細胞移植で根治できる可能性が高いため、小児病棟で長期間入院することはなくなりました。個人的には、重症再生不良性貧血が最も厄介な病気と感じ、その免疫抑制療法や造血細胞移植術による治療に興味を持って研究を続けました。スイス連邦のバーセル大学血液内科に留学したのもそのためでした。