小児患者への治療法
最近では種々の病気に対する治療薬は、製薬会社の治験や医師主導治験などを経て、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査で国内承認され、その後に保険適応になるかどうかが決められるという手順が一般にも知られてきました。特に今回のコロナ禍では、「特例承認」などの表現で従来と比較して早く現場に提供されていますが、一般的には発見から市場(医療現場)に出てくるまでに短くても10年以上は必要と言われていました。
20世紀に小児がん治療に使用されてきた多くの薬剤が、その使用を正式に承認されないで使われてきたことはあまり知られていません。それは、小児患者を対象にした治験が行われていなかったからです。21世紀になってからは、小児での治験も実施されるようになり、ほぼすべての薬剤や治療法は正規の手続きを経て臨床現場で使用されています。しかし、以前は小児患者での治験はできないという考えなどで、成人のデータから経験的に使用できる小児量を推測して使うという実態があったのです。これは一概に悪いことではなく、迅速に必要な患児に必要な薬剤が使用できるという利点もありました。今ではそのような意見は言えません。
一つわかりやすい例を提示します。骨髄移植は日本では1970年代後半から試みられ、1980年代には保険適応の治療として承認されています。現在であれば、従来の標準的治療法と比較し、どの程度優れた治療法なのかを臨床試験で証明し、その結果で承認されると思います。高度先進医療(自費診療)として結果を出すという方法もあります。骨髄移植が承認されたのは、極端な言い方をすると「外国でやっているから」という感じで導入できたと聞いております。おそらく、多くの先輩が努力をされて承認にこぎつけたと思いますが、少なくとも臨床試験で効果を確認する必要がないほど、対象者が亡くなっていたということでしょう。
私自身も多くの患児に、エンドキサン大量療法、メルファラン大量療法などの移植前抗がん剤大量投与を行っていましたが、それらが保険で承認されたのは2000年頃でした。今から考えると、日本社会全体にいい意味での余裕(ある意味いい加減さ)があったように思いますが、真の先進国ではなかったとも言えると思います。