1.はじめに
(1) 出生直後からの母と子の触れ合い
胎児期の子宮の中の赤ちゃんは、約40週のあいだ温かい羊水と柔らかい壁に包まれ、お母さんやお父さんの声を聞きながら暮らしています。その赤ちゃんが、出生の時を迎えると、波状的に起こる陣痛によって押し出され、空気のある世界に生まれ出てきます。赤ちゃんは一世一代の生死をかけた試練を潜り抜け、やっとの思いで無事にお母さんのもとにやって来るのです。そのような赤ちゃんを最初にお迎えする場所はどこがよいのでしょうか? 赤ちゃんはどのようにしてほしいと思っているのでしょう?
きっとお母さんの温かく柔らかい体に抱かれ、聞きなれた声を聴いて安心し、これまでは胎盤を通じて24時間絶えることなく供給されていた栄養を自分で獲得するために、第二の胎盤といわれる乳房の近くで、いつでもおっぱいを飲めるようにしてほしいと思うでしょう。
お母さんの体が赤ちゃんの居場所であるとも言われています【文献1】。
この時期の赤ちゃんには、部分的皮膚接触ではなく、体を丸ごと包みこまれ抱っこされる体験が必要です。
これは「母親によるholding(抱きかかえること)が自己の生成と統合を支える基盤になる」【文献3】という心理的な意味ばかりではなく、体温を適温に保ったり、ホルモンの分泌を促したり、無菌の胎内ではなく細菌やウイルス等のいる世界で生物体として生きていくためにも不可欠です。
母親との十分な皮膚接触を通して、母親の正常細菌叢を受け取り、母乳を通して免疫、感染防御、栄養、成長に必要なさまざまな物質を受け取ります。タッチケアは、このような赤ちゃんとお母さんのやり取りの延長線上のケアといえるでしょう。
(2) タッチケアの具体的な方法と展開【文献4】
タッチケアは、親と子どもが肌と肌をふれあわせ、なでさすることによって、親子の体と心のきずなを促す働きかけです。
タッチケアには、NICU(新生児の集中治療室)入院中の赤ちゃんから乳児早期までの手順と、2~3ヶ月からの赤ちゃん用の手順があり、ホールディング(holding )、マッサージ、手足の曲げ伸ばしの運動なども含まれています。
タッチケアは赤ちゃんやお子さん、お母さん、お父さんのその時々の状況に合わせて行うことが大切です。タッチケアのふれあいでは、親子がともに心地よさを感じることが大切です。
ここでは、2~3ヶ月からの赤ちゃん用のタッチケアの具体的な方法についてご紹介します。
なお、この方法は、お子さんの成長に合わせて活用できます。
引用文献
- 1. Mohrbacher N. (2009) The natural law of breastfeeding. 10周年記念企画第1弾特別学習会in 名古屋資料集所収.日本ラクテーション・コンサルタント協会.p.18.
- 2. Klaus MH, Kennell JH, Klaus PH.(1995)/竹内徹訳(2001).親子とのきずなはどうつくられるか.医学書院.p.94.
- 3. Whinicott, DW.(1986/1989). 北山修監訳(2007).抱えることと解釈.岩崎学術出版.p.359.
- 4. 井村真澄(2017).第5章C.タッチケア.助産学講座3基礎助産学[3]母子の健康科学第4版.我部山キヨ子・武谷雄二編.所収.152-167.医学書院