4.総合討論(17)
吉永私自身のことを考えますと、何か仕事でうまくいったり、「ああ、やった!」と思ったときには父を思い出しますし、体が弱っていたり、どこか痛かったりというときには母を思い出します。
私の中で父と母は、どうやら上手にすみ分けをしてくれたといいますか、そういうふうに親業をしてくれたのだろうと思いますので、大変よかったと思いますが、だけど、うちの奥さんを見ていても、これは夫婦というよりは私にとっても母親だなと思うことがあります。どっちかというと困った状況だとか、痛んでいる状況のときにそう思うことがあります。私自身は、世に言われる母性というものがあるということを信じて疑いませんが、いかがでしょうか。
橋本ついでに、皆さんのために一つ笑い話を出しましょうか。
私は、かつて、病気を診るのではなくて育児相談だけを受け入れる育児療養科(育児何でも相談外来)を作りました。そこには、お母さんが主人に対して、「あれだけ協力すると言っていたのに、ちゃんと育児をしてくれない」、そういう訴えをたくさん持ってきます。話を黙って聞いていると、親父どころか姑さんの悪口までどんどん出てくるし、どんどん増えていきますね。これはもうどうにもならんなというので、「じゃあ、どうしましょう」「こうしましょう」なんて言ってもとてもそれは難しい。
そんなときに、「じゃあ、お母さん、ちょっと奥の手を教えましょうね」と言って、逆にお母さんに聞いてみます。「お母さん、お父さんが会社に行くとき、ちゃんと玄関まで、いってらっしゃいと送り出していますか?」。3割いるかな。出ていくときにまさか布団の中で寝てはいませんよね、と。そして玄関から送り出して、例えばマンションなら、「ベランダへもう一回出て、手を振って送り出していますか」とか、「そういうものを子どもに見せていますか」とかね。
それから、ただいまといって会社からお父さんが帰ってきたときに、「玄関まで、おかえりと言って出ていますか? そんな豪邸じゃあるまいし、4、5歩、足を運んだら玄関でしょう。玄関へ行って、お父さんがただいまと言ったら、『おかえりなさい!』と子どもも玄関へ引っ張ってきて、『ほら、お父さん、お帰りよ!』と言ったら、親父はどんなにかうれしいでしょうか」と。
だから、お父さんが協力していないといってイライラする前に、「自分がちょっとお父さんを手のひらに乗せてみようよ」と。部屋でも親父が座る場所があると思います。うちでもそうでした。子どもが座っていると、「ほら、どきなさい。お父さんが座るから」。お風呂が沸きました。「入っていいね?」「いや、今日はお父さんがおいでだから、お父さんが一番でしょう」とかね。食卓の用意ができても、子どもが座って、「食べていいね?」「待ちなさい! 今日はお父さんおいでだから、一緒にいただきますでしょう」と。嫁さんからそんなことをされたら、やっぱり親父は責任を感じますよね。
だから、親父の文句を言うよりも、まずは手のひらに乗せていくことが先じゃないかな。結構これで成功した人がいるんですよね。それを子どもに見せることが非常に大事だと思います。その子どもがやはりそれを継いでいくことになると思います。