3.タッチケアのきっかけと日本における広まり(4)

3.NICUにおける母子分離への対策

一方で、出生直後からNICUへ入院となるような場合は、早期母子接触もできず、継続的な母乳育児も困難になります。特に長期にNICU 入院となる子はそのためにいろいろな問題も生じてきました。表情を見ただけでもわかりますが、いわゆるホスピタリズム症状、情緒障害と言われる子どもがNICUの中に生じてきました。

(1) NICUへの保母の導入

そこで私は、日本ではじめてのことですが、最初にNICUに保母さん(保育士)に入ってもらって、子どもと遊んでもらおうということを考えました。子どもと専門的にかかわる人は? と考えたら、やはり保母さんしかいなかった。NICUに何と6人ぐらい入れていただきました。1980年ですから、もう37年前の話です。

保母さんが大活躍してくれました。見てください。未熟児(早産児)の赤ちゃんが1カ月足らずで、〝レロレロレロレロ〟と、真似をするんですね。赤ちゃんのすばらしい能力です。それから、筋緊張の高いような赤ちゃんを、抱っこしてやると、リハビリにもなります。それから、気管内挿管をしている子なども、昔はベッドに寝たままですが、読み聞かせをしてやったり、いろいろなことを教えてくれる。そうすると、情緒の発達がまずこれでカバーできていくわけです。

NICUへの保母の導入NICUへの保母の導入

(2) 保母によるタッチケアのはじまり

そんなわけで1980年に保母(現在保育士)を入れたのですが、保母さんが、保育器の中の1キロ足らずの赤ちゃんにまで手を伸ばしてケアしてくれるようになるのに、やはり何年もかかりました。怖がって触りません。しかし、そのうちにすごい事が始まったのです。

イライラしていた赤ちゃんが大声で泣き出すと、泣いている赤ちゃんにそーっと手を当ててくれるようになる。サーッとなでると、いい顔になって眠りについていく。こういうことがしょっちゅう見られるようになりました。保育器から出た赤ちゃんにも、やさしく背中をちょっとさすってあげる。「触ってやると、いい顔になって落ち着くんです」ということが保母さんたちの言葉でした。「おお、それはいいねえ、それはタッチケアだな」ということから、タッチケアが始まったのです。

1988年に初めて学会で報告させていただきました。まさに、語りかけ、ホールディングも含めて保母さんによる自然発生的なタッチケアだったわけです。

保母によるタッチケア(1988)保母による自然発生的なタッチケア

それは、「赤ちゃんに話しかけながら肌と肌を触れ合うと、いい顔になって、おとなしくなるんです」、そういう保母の話。これがいろいろ研究されていくうちに、生理的には静睡眠、そして情緒の安定、体重も増加、免疫機能もよくなる。そういうことが少しずつわかってきたのです。

それをお母さんに見せて、面会に来たお母さんにタッチケアを保母さんから教えてもらって、してもらいますと、お母さんの愛着形成が増えていくのです。すなわち、「子に育つ力、母親に育てる力を与える」ということもわかってきたわけです。

ただ、私たちはその研究をお母さんからのアンケート調査以外にデータ的にはやっておりません。こんなのは誰が見てもわかるからと思っていたわけです。ところが、1997年に第9回世界小児科学会で、アメリカのティファニー・フィールド(TiffanyField)が、「Touch therapy」という言葉でベビーマッサージの研究成果を発表しました。例えば、体重が増えるとか、抗ストレス作用があるとか、入眠効果があるとか、医療経済的効果(これは、体重が増えるから早く退院できるということですが)などを含めて学会で発表されました。

(3) 日本タッチケア研究会の設立

これを聞いて、1999年に、前川先生が厚生省の研究班で音頭を取ってくださって、日本にタッチケア研究会というものがつくられたわけです。1988年に私たちが始めましてからちょうど10年ぐらいになりますが、その間に調べますと、フランス、スウェーデンでも早くからベビーマッサージとして報告があり、ティファニー・フィールドの他、ピーター・ウォーカーなどが日本にも講演に来ています。この研究会も、2011年に協会になり、会員も1、500名となり、今は、年に2回の専門家養成のための講習会を開催し、日本タッチケア学会まで行われるという状況に発展しております。

このタッチケア協会のフィロソフィーですが、2つあります。

我が国へのタッチケアへの波日本タッチケア協会のフィロソフィー

一つは、児の発達効果や、生理的・心理的効果を科学的に研究する。やはり科学的に研究しましょうと。そしてもう一つ、こちらのほうが大きいのですけれども、日本で昔から当たり前に行われていた、「ふれあいによる親子の情愛を深めることの大切さを実証して、広めていきましょう」というのがタッチケア協会の大きな目的、フィロソフィーなのです。

マニュアルも、新生児用、乳幼児用というものをつくりました。

日本タッチケア協会・タッチケアマニュアル