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先天性免疫不全症について

富山大学大学院医学薬学研究部 小児科学教授 宮脇利男先生

先天性免疫不全症にはどんなものがあるのか

多岐にわたる先天性免疫不全症一つ一つの説明は、専門書に譲るとして、ここでは、代表的なものについて述べます。B細胞機能の欠陥に属する病気の中で最も多いものに、Ⅹ連鎖性無ガンマグロブリン血症があります。この病気の本体は、B細胞の初期分化に障害があり成熟B細胞を欠如しており、抗体産生が著しく低下していることです。抗体は血清蛋白の中でガンマグロブリン分画にあり、患者の血清ではガンマグロブリン値が著減しています。無ガンマグロブリン血症と呼ばれる所以でもあります。男児のみ発症します。原因遺伝子は細胞内チロシンキナーゼのひとつであるBTKであることが分かっています。母親から経胎盤的に移行したガンマグロブリンが消失する生後1年以内から、肺炎、副鼻腔炎、中耳炎等の化膿菌感染を呈することが多いです。予防的治療として、数千人もの健康成人血液から分離・精製された静注用免疫グロブリン製剤(IgGが主)を3〜4週間隔で投与いたします。きちっと、このことを守れば、生涯を全うできます。初期治療が遅れると気管支拡張症を合併し、慢性呼吸器障害に至り、生活に支障を来す危険があります。

ついで、T細胞機能不良を来すものの中で、乳児期早期から発症し、臨床的に緊急を要する病気に、重症複合免疫不全症があります。重症複合免疫不全症は、T細胞の数や機能に異常があり普段は感染に罹りにくい病原体による日和見感染を来しやすい病気ですが、同時にB細胞の数や機能に異常を伴い、抗体産生も極めて低下していて、重症複合免疫不全症と呼ばれます。原因遺伝子として、リンパ球の前駆細胞からT、B細胞に分化することに関わるいくつかの分子が分かっています。骨髄移植等の血液幹細胞移植での根治療法を、診断後直ちに施さないと命に関わる危険が高いです。

好中球の機能の異常による病気として、慢性肉芽腫症があります。慢性肉芽腫症は、好中球の殺菌能に重要な活性酸素を産生するための酵素NADPHオキシダーゼが十分に働かないために、皮膚化膿症を反復したりからだの深部に膿瘍を作ったりする。化膿菌による膿瘍が多いが、抗生物質で治りにくい真菌による深部膿瘍は厄介な感染にかかりやすいです。抗生物質による予防投与やカビの少ない環境での生活改善等で、しばらくは重い感染症から免れることができますが、ゆくゆくは血液幹細胞移植を行わないと命に関わります。

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