スマホ・ネットゲーム中毒(依存)—電子機器が子どもを取り囲む恐怖—
こども心身医療研究所・診療所 所長 大阪総合保育大学 名誉教授 冨田 和己先生
Ⅱ 子どもを悪化させていく時代の流れ
1. 電子機器の進歩がゲームを凶器に変えていく
子どもは室内でするゲームも大好きですが、かつてはお正月など特別な日に許された遊びで、ゲームを通しても人間関係を学び、他人を観察する能力も養えました。ところが昭和53年(1978)、インベイダーゲームの登場で、機械相手に一人で楽しめる電子機器によるゲームが登場し、主に大人の遊びが小型化したテレビゲームが5年後に家庭に入りこんで、子どもにも急速に広がり始めました。当初は誰も予想しなかった救い難い「不幸」の開幕です。
その後は電子機器の進歩で、続々と多彩な機器が開発され続けていきます。子どもを可愛がる文化のわが国は、貧しい時代には世界的にみても素晴らしい子育て(1)をしていたのに、豊かになった現代では「甘やかし過ぎる」弊害の方が大きくなり、これに電子機器が加わり、子どもは奈落の底に落ちていきます。携帯電話の多彩な機能から、多機能電話(スマホ)に至ったのは、この流れに乗っていたのではないのか、とさえ思えてきます。
2. 映像普及の怖さ
昭和28年(1953)、わが国でテレビ放送が開始され、映画館で楽しめる映像が家庭に入る時代が到来しました。一般家庭に入るには数年かかりますが、評論家の大宅壮一は「テレビは日本人を一億総白痴化する」と発言して話題になりました。このテレビは日本の経済成長と共に普及し、やがてすべての家庭で見られるようになり、その後、10年ほど経過した頃、ある心理士が『テレビに子守りをさせないで』と言う本を出版しました。「自閉症をテレビが作る」という内容は、専門的には否定されましたが、テレビを見せ過ぎると「自閉的(対人関係がとりにくい)子どもをつくるのでは?」という問題提起をしたと解釈すれば、「一億総白痴化」ほどではなくても「先駆的指摘ではなかったのか?」と思えてきます。当時はテレビのチャンネル数も少なく、家庭用ビデオもなかったのですが、その後のこの分野の進歩は、膨大な映像情報を豊富かつ簡単に家庭に提供するようになり、同時に発達障碍(自閉症スペクトラム)の激増がこの20年ばかり強く言われるようになりました。何よりも、映像による知識は多く与えられたようにみえても、自らの努力で得たものでないので、知恵にまで至りません。
3.通信の進歩は子どもを泥沼へ
コンピュータの進歩は小型化によって、30余年前から家庭に入り始め、その頃から一部のマニアがダイヤル式のあまり快適と言えないネットを楽しみ始めました。その時、これはギャンブル・アルコール依存症に似ていると米国で指摘(2)した人がおりましたが、今や「似ている」でなく、それ以上の問題が子どもに出ています。パソコンでネットやゲームを楽しむのを私は10年前に自書(3)で「ネットやゲームは子ども部屋に土足で『悪人』が入って来たようなもの」と書いたのですが、今やスマホとネットゲームが加わり「『凶悪犯人』が寝床にまで侵入した」と言って過言ではありません。
参考文献
- (1)渡辺京二:逝きし世の面影(平凡社ライブラリー)
- (2)橋元良明:調査から見た日本のネット依存の現状と特徴.「教育と医学」1月号(2015)
- (3)冨田和巳:小児心療内科読本-わたしの考える現代の子ども(医学書院)
※筆者の子育ての基本を詳しく知りたい方は(3)を参考にして欲しい。本書は専門書であるが、一般の方が読むことを想定して「心身症」「発達障碍」などと「子育て・家庭・教育・文化・歴史」を詳しく述べている。
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