母子健康協会 > ふたば > No.79/2015 > 「保育における言葉とコミュニケーション」 > コミュニケーションの基本-聴き方と話し方

設立80周年記念 第35回母子健康協会シンポジウム(東京会場)
「保育における言葉とコミュニケーション」子ども達と保護者と共に育ちあいつながりあう保育

コミュニケーションの基本-聴き方と話し方

東京慈恵会医科大名誉教授 前川 喜平先生

前川私は小児科医で言葉によるコミュニケーションの専門家ではありません。私が小児科医になった55年前、患者さんが多く小児科医は走って仕事をしないと務まらない時代でした。それに加え私はせっかちで、早とちりで、江戸っ子で、時代が落ち着いても随分そのことで失敗をし、損をしてきました。今日、皆様にお話しすることは、私が失敗を重ねて得た言葉によるコミュニケーションの教訓を素直にお話ししようかと思います。

本題に入るまえに「言葉とコミュニケーション」で皆様に知って欲しいことからお話をします。

私もそうでしたが、皆様も、自分の職場に不満を持っている人はたくさんいると思います。その原因は、自分を理解してくれない、言うことを聴いてくれないとか職場(相手)にあるのです。それは本当に正しいでしょうか。ここで、皆様に知って欲しいことがあります。世の中には「変えられないもの」と「変えられるもの」があります。変えられないものは何ですか。変えられないものは「自分の過去」と「他人の考え」です。変えられるものは何ですか、それは「自分の考え」と「未来」です。皆様にぜひ考えて欲しいのは人の心は鏡です。こちらが好意的に接すれば相手も好意的となり、否定的に接すれば相手も否定的となります。人間関係に悩むのは話すときの態度に問題があることが多いのです。聴き方、話し方は技術ではありません。聴くことの重要性を認識して、自分の聞く態度を改めることがより重要なのです。

皆様はどうですか。聴き方と話し方と、どっちが重要で、どっちがうまくなりたいですか。話し方が重要で、話し方がうまくなりたいと思う方、手を挙げてみてくれる?(挙手あり)聴き方が大切で、聴き方をうまくなりたいと思う方、手を挙げてみてくれる?(挙手あり)ああ、断然聴き方が多いですね。今の与党と野党ぐらいの差ですね(笑)。

一般には、自分の考えを変えないで相手を説得しようとしている人が多いのです。しかし、ワンマンの社長が社員に話すみたいなことではない限り、それは心からの説得にならないことが多いのです。社員は従っているだけです。

皆さん、よく考えてみてください。人間は誰でも自分が一番大切です。絶えず、ほかの人に認められたい、あるいは、受け入れてもらいたいと思っています。相手の話をよく聴くということは、その人を認めて受け入れることなのです。だから、聴き上手になる方が話がうまくいく早道なのです。話をして相手の心を動かすよりも、まず、相手の話をよく聴いて、相手を受け入れて、それからこちらのことも話すと、意外とうまくいくことが多いというのは、そういうことではないかと私は思います。

図1

話をする、聴くときにどういう座り方が一番いいですか。図1は、医学部の学生に患者さんや家族から必要な情報を得るときに使用した座り方です。面と向かって、椅子も何にもなくて座る、机があって、机をはさんで対面して座る。丸い机があって、お互いに向かい会うのではなく、見える斜めの位置で座る。これで一番話しやすいのはどっちですか。向かって一番左がいいと思う人、手を挙げてみて。(挙手あり)真ん中。(挙手あり)一番右はどうですか?(挙手あり)

前の二つは対決の座り方なのです。車をぶつけて相手から弁償をもらうなんていうときはこの位置に座ります。斜めに座ってはだめです。相手が見える位置で斜めに座るのが、相手を受け入れる姿勢なのです。話す時に気をつけなくてはいけないのは、服装です。決して高いものを着ることはないです、さっぱりとして、その人らしい相手によい印象を与える服装というのがあります。

次に、話すときの「態度」です。態度で一番大切なのが、非言語的態度です。体を乗り出して真剣に聴くまなざしだとか、うなずきだとか、場合によっては手を握るとか、意外とそういう非言語的な態度が大切なのです。

その他、気をつけていただきたいのが、話すときの全体の雰囲気です。音楽がかかっていて話が聴こえないところはだめです。静かな落ち着いた、話しやすい雰囲気でお話しするというのが条件です。(コーヒーやお茶を飲みながらでもよいです。)

話をするときの基本は、相手の話を聴いて、それで、その相手の状態がどうあっても、相手の立場を肯定的に受容し、そのときに感じたことは、そうですねえ、大変ですねえとか共感する、あくまでも相手を丸ごと受け入れる言葉かけです。基本は、傾聴、受容、共感、肯定的な言葉かけで会話がうまくいくということになっています。それでは本題についてお話いたします。

母子健康協会 > ふたば > No.79/2015 > 「保育における言葉とコミュニケーション」 > コミュニケーションの基本-聴き方と話し方
事業内容のご紹介 協会の概要活動の概要設立の経緯協会のあゆみ健康優良幼児表彰の歴史
最近の活動のご紹介
小児医学研究への助成 機関誌「ふたば」の発行シンポジウムの開催 Link:Glico