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設立80周年記念 第35回母子健康協会シンポジウム(大阪会場)
「保育に役立つ健康知識」子ども達の健やかな発育・成長のために

食物アレルギーの基礎知識と対応(3)

同志社女子大学生活科学部食物栄養科学科教授 伊藤 節子先生

では、牛乳はどうか。牛乳のタンパク質の80%がカゼイン、10%がβ-ラクトグロブリンです。牛乳アレルギー児の60%は両者に特異的なIgE抗体陽性ですが、40% はβ-ラクトグロブン特異的IgE抗体陰性です。

牛乳は、特に乳幼児の場合、除去する場合には、必ずアレルギー用のミルク、アレルゲン除去調製粉乳による代替が必要です。ミルクに対する反応性には個人差がありますので、一人ずつ主治医に決めていただく必要があります。お料理には、牛乳、乳製品を用いません。牛肉の血液の成分中のアルブミンと反応することがありますが、よく加熱すれば全く問題はありませんので、牛肉料理は食べることができます。

牛乳の抗原性についても加熱の影響を見てみましょう。スーパーで買ってくる牛乳は既に加熱殺菌されておりますが、それをさらに加熱しますと、β-ラクトグロブリンの抗原性は5分の1以下になりますが、カゼインは全く変化を受けません。ですから、調理したとき、配膳時にも混入に注意する必要があります。

では、パンに入れたときはどうか。まず原材料、同じバターロールでも製品により使用される乳成分は一定ではありません。「食べる」側から見た抗原性は、β-ラクトグロブリンはほとんどなくなりますが、カゼインのほうはやはり、パンに入れても全く変化しません。でも、液体の状態の牛乳と違いまして、胃の中にとどまり消化を受けやすいので、症状が起こりにくくなります。

負荷試験で牛乳10㏄を飲めたときには、何がたべられるか。パンなどにはカゼインが多く残っているため、食品中のカゼインの量で、どれだけの量の食品がとれるかということが決まってまいりますが、パン中の「食べる」側からみたβ-ラクトグロブリンは非常に少なくなっています。ですから、逆は成り立たない。50gのパンを食べることができても、β-ラクトグロブリンの量がネックになり、安全に飲めると指導できる牛乳はわずか0・08㏄です。こういうことも知っておきますと、患者さんが経験されることで不思議だなということが、ほとんど説明がつき、不安を取り除くことができます。原材料として用いるタンパク質量だけでは判断ができないということをまず知っておいていただきたいと思います。

小麦はどうかと言いますと、特に重要なことは、お醤油を作るときには小麦が使われていますけれども、小麦中の主なタンパク質であるグリアジンは発酵中にほぼ100% 分解され、摂取しても症状をおこさなくなるということです。実際に最重症の小麦アレルギー児もこれまで全員が普通のお醤油を使えています。こういうことも知っていただきますと、給食などで対応しやすくなると思います。また、小麦アレルギー児のほとんどは麦茶を飲めますが、麦ご飯は食べることができない場合があります。

大豆もほとんどの場合、お味噌、お醤油は使用できます。バランスの面で、大豆油をそんなに避ける必要はない、むしろバランスのいい油の一つです。

お魚は、小さいお子さんにとりまして、ビタミンDの主要な供給源ですので、栄養面から何とか除去は避けたいというのが正直なところです。そして、古いお魚は、ヒスタミン中毒をおこすことがありますので、家庭では冷凍を避けるほうがよいでしょう。鰹節とか、缶詰の魚というのは通常は食べることができます。俗に言う青背の魚、アレルギーが多いということはありません。むしろ少なくて、白身の魚で症状を起こす方でもサバとかサンマは食べることができるということで、積極的に開始をしていただく。検査をすると全部陽性に出てしまうことが多いですが、検査上の問題であり、実際に食べることのできる魚を見つけることができます。早めに専門のところにご紹介いただいて、食事指導を受けるとよいでしょう。

エビとカニは、アレルギーを起こすタンパク質が共通していますが、イカとかタコなど軟体類や貝類は、エビ特異的IgE抗体が陽性ですと血液検査では陽性に出てしまいますが、食べることができる場合が多いので、これも専門のところで負荷試験なり、1回投与試験で確認をして、不要な除去は避けるということが大事です。

お肉のアレルギーは、まずほとんどありません。通常はやめなくてもいいでしょう。

お野菜とか果物アレルギーは、このごろ年長児で増えてきてはおりますが、多くの場合は、加熱しますと摂取可能になります。

大事なことは、給食は3食のうちの1食、保育園ですとプラスおやつがあり、1日摂取量の半分ぐらいを園でとっているかもしれませんが、集団では与えなくてもいい食材があるのではないか。落花生、おそば、木の実類など、一旦アレルギーを起こせば症状が強く、しかも治りにくい。こういうものは、給食で与える必要はない、あえてあげないという選択も一つの方法ではないかと思います。

「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」に示された生活管理指導表では、保育所の給食で除去が必要な場合に主治医に記載してもらいます。除去の根拠も書くようになっています。学校生活管理指導表と違う点は、乳幼児であるため、栄養面の配慮をしている点です。例えば、牛乳アレルギー児では牛乳アレルゲン除去調製粉乳の具体的な商品名も記載するようになっています。保育所では、除去食か普通食か、二つにしてくださいという方針が厚労省からも出ています。重症例以外は摂取可能な卵殻カルシウム中の卵成分や乳糖中の牛乳成分のように微量のタンパク質までも除去が必要な場合には具体的にチェックするようになっています。

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