設立80周年記念 第35回母子健康協会シンポジウム(大阪会場)
「保育に役立つ健康知識」子ども達の健やかな発育・成長のために
子どものけが・事故とその対応・対策(2)
奈良県立医科大学 名誉教授 吉岡 章先生
さて、今日お話するのは、こういう個々の問題よりは、事故が起こるかもしれない、起こってしまった、じゃあどう対応するかという、ある種の危機管理についてお話します。
私自身、大学で小児科教授、病院長、学長という立場にありましたので、一つの組織としての危機管理について色々やって参りました。同様に、理事長さん、園長さん、主任保母さんにとってはとても大事なことだと考えます。重く深刻な事故が起きた、そのときの対応をどうしようかという話です。例えば、子どもの意識がない、何度呼んでも返事もしないし動かない。そういうときは、意識喪失、さらに呼吸も停止している可能性が高いわけです。胸やお腹を見ると息をしていない。いくらたたいても目も覚まさない。これは大変な状況であります。まず救急車を呼ぶ、心臓のことを考えると、体外式の自動除細動器(AED)の設置は必要でしょう。置いておられるところもあろうと思いますが、置いていても、大人対応しかないのであれば余り意味がありません。子ども対応のものも売られています。
こういう場合は、まずは救急車を呼ぶ、と同時に、心肺蘇生をやります。図1に沿った形で、胸の中央部を1分間に100回、あるいはそれ以上の回数で押し込みます。そして、30回に1〜2回程度、マウスツーマウスで息を吹き込む。その場合に、必ず顎を上げて気道が確保された状態で息を吹き込む。心臓マッサージも、下が柔らかい布団の上ではほとんど意味がないので、比較的固いところに寝かせてやるということが大事です。
それから、救急車を呼ぶ場合も、救急車の呼び方があります。明瞭簡潔に言います。こちらは慌てています、したがって、何を言うかということをあらかじめ電話器の前に書いておいていただくと良いと思います。119番は、いつも救急車というわけではないのです。火事のときも119 番ですから、「救急です」と通報します。例えば、〇時〇分ごろに何歳の子どもが、高さ〇mのところから落ちて全く泣かない、揺らしても返事もしない。あるいは、食事のパンをのどに詰めて青白くなっている、そういうことを言います。もちろん、通報者の施設名、名前、電話番号も必ず述べる必要があります。そして、できたら聞き返されることもありますので、すぐには電話を切らない。少し電話を続けるような感じにしていただく。救急車が必ずしも園を知っているわけではありませんし、園も必ずしも大通りに面しているわけではありませんので、どなたかが救急車を迎えにいくということも必要と思います。
今日はそれがメインではありませんが、小児の蘇生とか救急の対応、心肺蘇生その他については、具体的なプログラムや教材、DVDもありますので、二つ紹介します。右のほうが日本語のものもございます。
小児救急を学べるプログラムと教材
- ●マスターワークスの「L.S.F.A.-Children's」
- http://www.ne.jp/asahi/master/Isfa/
- ●ミニベビー(乳児CPR学習キット)
- http://www.laerdal.com/jp/doc/184/US-Infant-CPR-Anytime#/Info
救急車を呼ぶときの注意点をもう一つ。あらかじめ役割分担を決めておくということが重要です。いつも園長先生がいるとか、主任保母がいるとは限らないです。まして理事長がいないこともあります。したがって、誰がいない場合には誰がやるという順位をきちっと決めたものを、あらかじめ、園長がおられるときの場合といない場合、書類を2種類つくるとか、色で書き分けるとかいうことをしておく。
深刻な事故が発生したときにやるべきことを、表3に書いてありますので、①から⑨に沿って、これらは役割を決めながら、分担しながらやらなければなりません。①まず救急車を呼びます。それはできるだけ異常を知った人、見た人、聞いた人がやります。②心肺蘇生もやります。これはどなたでもやれないといけません。③病院にも付き添って行かなければなりません。それはできるだけ事情のわかっている方、状況のわかっている方が救急車に同乗します。④事故の後、当該保護者にも連絡しなければいけません。監督官庁にも連絡する必要があります。⑤ほかにもたくさん子どもたちを預かっているわけですから、事故当日、他の子どもの保育も行わなければなりません。
そして、⑥事故については、記憶が定かなうち、あるいは混乱の起こらないうちにできるだけ早く記録をとることもします。⑦連携をとる。必要な方に電話をする、病院に行った人たちとの連携も図ります。⑧きっとみんなびっくりするので、当該保護者のみならず、近隣の人たちにも説明する必要が出てきます。また、ほかの子どもたちの保護者にも連絡する必要が出てきます。最後に⑨臨時の職員会議を開いて、明日以降のことについての緊急の相談も必要になってまいります事故が起こった日の対応についてと、それ以後の対応に分けて考えて参ります。
混乱の中でも、①〜⑨までをやりますけれども、もう一、二、大事なことを述べますと、起こった現場は片づけない、子どもたちに触らせない、基本的にそのままにしておく。なぜこういうふうになったのかは、事故の分析、そして重篤な生命予後になりますと、捜査の対象にもなります。病院にも必ず同行して事情を説明することが必要になります。保護者にも必ず連絡します。その場合、とにかく様子がわかってからといって、余り時間を置くということは賢くないです。できるだけ早く言います。ただし、いくら早く連絡したからといって、事情が全部わかっているわけではないので、まずは、こういうことが起こったということだけの一報を入れる。だから、わかっていないことまで、推測して、きっとよくなるでしょうとか、そういったことを言う必要は全くないので、何が起こったということを的確に言います。
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