設立80周年記念 第35回母子健康協会シンポジウム(大阪会場)
「保育に役立つ健康知識」子ども達の健やかな発育・成長のために
子どものけが・事故とその対応・対策(1)
奈良県立医科大学 名誉教授 吉岡 章先生
吉岡それでは、三つ目の話題に入ります。これは私が担当いたします。「子どものけが・事故とその対応・対策」です。先生方におかれては、子どもたちが朝、元気に来て、何事もなく元気で帰っていく、これが毎日繰り返されるわけでして、当たり前と言えば当たり前のことですが、保育園・幼稚園(以下、園)において、けが・事故が起こらないという保証は全くありません。逆に言うと、予め、起こるものと考えて対応していくことが一番の原則になります。
表1をご覧ください。残念ながら、子どもが不慮の事故で亡くなるのは、我が国でも大きな問題であります。0歳児を除きますと、子どもの死因の第1位は不慮の事故であります。子どもの死因には病気として小児がんがあり、心臓病があり、いろいろな感染症、脳炎・脳症がありますけれども、それよりも不慮の事故のほうがうんと子どもの命を奪っているのです。
では、どんな不慮の事故があるかをお示しします。表1の一番上は事故の総数です。具体的には左の上から2番目の交通事故が数では最も多いです。それから転倒・転落、不慮の溺死および溺水、そして、その他の不慮の窒息と続きます。横は、5歳ずつ刻んでいますけれども、0歳〜4歳までは、0歳だけを別に項立てしております。大体5年刻みと考えてください。0歳児だけは、死因の一番は不慮の事故ではなく、生まれつきのものです。いろんな先天性の疾患、遺伝的なもの、低出生体重児、その他がございます。
不慮の事故の中で交通事故が一番多いですが、圧倒的に児童・生徒、小学生や中学生に多い。これは活発に外に出るからです。交通事故は、園の先生方にとって、もちろん関係がないわけではありませんけれども、主に家庭や社会の問題になろうかと思います。ただ、下のほうの転倒・転落、不慮の溺死・溺水、その他の不慮の窒息ということになりますと、これは園でも起こってまいります。
表1 では、2000 年から2005 年にかけて、全体としては減っていってはいますけれども、その他の不慮の窒息、すなわち、物を喉頭・咽頭に詰めて息ができなくなって窒息するということについては、減り方が不十分だと指摘されております。では、園としては、どういうことに気をつければ不慮の窒息や転倒・転落、溺水を防ぐことができるのかということであります。それは、多岐にわたりますけれども、表2を見ていただくと、具体的な対策が列挙してあります。
上から五つ程度の項目、「子ども一人で家や車に残さない」とか、「浴室のドアを子ども一人で入れないように工夫する」とかは、どちらかといえば家庭の問題ですけれども、水遊び以下は、おおむね家庭及び園での共通事項であります。例えば、水遊びをするときに大人が付き添うとか、子どもだけで川や海に行かせないとか、医薬品、洗剤などを誤嚥させない、ピーナツやあめ玉などを子どもの手の届くところに置かない、この辺になってくると園とも関係があります。窒息するものをあえて与えない、与える場合にはどういうふうにするのかということが大切です。タバコは論外であります。熱いものもあり得ます。暖房器具、これも危ないものは滅多に使っておられないと思いますけれども、やけどの原因になります。包丁や切れるもの、突くものも基本的には置かない。お箸とか歯ブラシは、口に入れたまま動き回りますと、それで突いてしまうということになります。ドアや引き出しに指を詰めるということもしばしばあります。こういうものに対するストッパー、その他の対応が必要であります。
園には、すべり台やブランコなど、いろいろな遊戯器具があります。こういうものの安全はきちっと点検をしましょう。もちろん、これらのものも、室内で使うものも含めて、日本工業規格(JIS)でいろいろ決められていますけれども、ちょっと前にお買いになってJIS規格をくぐり抜けたものがそのまま10年、15年と使われているものもありますので、要注意であります。当然のことですけれども、ベランダや窓、ここから転落しないようにするのも大事であります。子どもを急がせる余り、あるいは駄々をこねる子どもを「はよ、おいで」と言って強く引っ張ってしまうと、肘内障といって肘が抜けるということもあります。この辺のことは、家庭でも園でも共通の注意としてぜひ気をつけていただきたいと思います。
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