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スマホ・ネットゲーム中毒(依存)—電子機器が子どもを取り囲む恐怖—

こども心身医療研究所・診療所 所長 大阪総合保育大学 名誉教授 冨田 和己先生

Ⅴ おわりに

…デジタル時代の怖さを再確認する

現代は電子機器万能のデジタル時代になり、機器の性能は飛躍的に進歩しました。デジタルは電気が+と-から成り立つことから発展した技術で「切る(分断)」が特徴ですが、私たちは絶え間なく流れる時間と連続した空間から成り立った「連続性」が特徴のアナログ社会に生きています。音楽のようにデジタル技術が仲介しても、耳に到達する時はアナログに変換されているように、目に見えない技術はデジタルでも、目に見える実社会はアナログなのです。

子どものスマホ・ネットゲーム中毒を診ていると、彼らはデジタル世界に浸りきっており、神業的な指先の動きは「ボタンを押す」だけの単純な±のデジタル的動作です。すべてが記号化(±)しているような世界に住み、人間関係さえ記号の中、つまりネットの中になっています。アナログ人間の理解し難い価値観が彼らの〝標準〟になっていきます。これは人類が築いてきた歴史、伝統、民族特有の人間関係を否定した、大げさに言えば「人類を滅ぼしかねない現象」になります。

一方で子どもを「大人は理解しなければならない」と教育や心理領域では言われてきましたが、私は自分の40年以上の臨床経験から、彼らの状態を理解しながらも肯定せず、これまでの人間が作ってきた社会の価値観が通じない現象は是正していくべきと考えてきました。学校に行かない子どもに優しく「登校しなくてもよい」と言い続けてきた40年近いわが国の多くの指導や治療が、引きこもり・フリーター・直ぐに転職する者を増加させる社会を作ったので(3)、私は物事の基本と本質に厳しく迫らなければならないと考えます。年々子どもを取り囲む環境悪化を目の当たりにし、教育・心理分野を覆う表面的優しさに溢れた対応は誤っていると言わざるを得ないのです。スマホ・ネット中毒だけの問題ではありません。

孔子やソクラテスをはじめ、先に紹介した古い時代の教えや格言が普遍的価値をもつように、人間の営みの基本は洋の東西を問わず今も昔も変わらないのです。電子機器の急激な進歩は、これと明らかに次元の異なる世界を出現させ、両者の間に大きな溝を作ってしまいました。子どものスマホ・ネット中毒を診ていると、この大きな溝が闇になり、ここに子どもが吸い込まれていくようです。子育て・成長・勉学の基本を、わが国の文化から考え、電子機器の怖さとそれに支配された現在の闇を感じれば、予防と対策への微かな光が見えてくるのではないか?それを期待したいと思います。

参考文献

  1. (1)渡辺京二:逝きし世の面影(平凡社ライブラリー)
  2. (2)橋元良明:調査から見た日本のネット依存の現状と特徴.「教育と医学」1月号(2015)
  3. (3)冨田和巳:小児心療内科読本-わたしの考える現代の子ども(医学書院)

※筆者の子育ての基本を詳しく知りたい方は(3)を参考にして欲しい。本書は専門書であるが、一般の方が読むことを想定して「心身症」「発達障碍」などと「子育て・家庭・教育・文化・歴史」を詳しく述べている。

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