設立80周年記念 第35回母子健康協会シンポジウム(東京会場)
「保育における言葉とコミュニケーション」子ども達と保護者と共に育ちあいつながりあう保育

気持ちに寄り添う言葉(4)

専修大学人間科学部心理学科教授 吉田 弘道先生

さあ、もう一つ。これは重要なのですけれども、「心のまとまりをつくる言葉がけ」ということです。

「心のまとまり」というのは、「子どもの心ができていく」ということで、知的能力が発達することだけではありません。自分という意識が明確になってきて、心の中心に「自分」というものができてくること。自分が、自分の考えや意思、感情や気持ち、自分の感覚や外からの情報、行動、運動や姿勢などを知っていること。ほかの人の気持ちの理解、ほかの人とのコミュニケーションができること。自分がまとまっていて、主体的に動いていること、これが、心が心になるということです。

図2

図1

今、皆さんは心が心になっています。自分の体のことを感じていて、ちょっと疲れてきたなとか、眠いなとか、飽きたなとか、いろんなことを感じていながら座っている。これはまとまっているからです。でも、小さい子はそうはできない。恐らく小さければ小さいほど、こんなふうにぐちゃぐちゃしていて、よくわからなくて、バラバラなのだろうと思います(図1)。これを大人たちが、「それはそういうことなんだよ」「あんよが上手だね」「それは足だね」「あれ、痒いんじゃない?」「あれ、怖いなあ」「それ寂しいんじゃないのかなあ」とか、いろんなことを言いながら整理してあげて、だんだんと子どもの自分がまとまってくるということで、こんなふうに自分を中心にしてまとめているという状態ができ上がるわけです(図2)。これが何歳ぐらいでしょうか。4歳になると、できている子がいます。2歳はまだ途中です。3歳も途中ですが、4歳はほぼできている子がいます。

そして、「心になること」というのは、最近、本屋さんで本を見ますと、「メンタライゼーション」というタイトルがついている本があります。「メンタルになること」というふうに、つくり上げた言葉です。ここにいろいろ書いてありますけれども、広く言えば、「人のこと、自分のことがわかっていくこと」という意味です。そのためには何が必要かというと、情緒的に応答する。そして、内面の心の動きや内側について言葉をくっつけてあげる。その状態や感じていることに近い言葉をくっつけてあげるということです。「感情のラベリング」と言ったりもしますけれども、その状態に近い言葉をくっつけるということです。

これは、大人の場合ですと、ちょっと抵抗感をもたれることがあります。共感でも、「それはとっても悲しかったんでしょうねえ」「今、とっても悲しいんじゃないの?」というのは、その状態に言葉をくっつけているわけですが、知らない人がそんなことを言うと、「何言ってんの、余計なこと言うんじゃない」と腹が立ちますね。親しい人がそのような親しい関係の中で、「とっても悲しいですよね」と言うから、「そうなの、そうなの」と、うれしくなるわけです。

ですから、心の内側に言葉をくっつけるというのは、大人も求めていますが、少し注意が必要です。子どもはまだ抵抗感までいっていませんし、内側のことはまだよく知らないので、そこに言葉をくっつけてみるということです。このような相手の仕方を、皆さんは赤ちゃんにもやっています。「面白いね」「ああ、あれ見てるの?」「ああ、びっくりしたねえ」「なんか寂しいねえ」「腹立っちゃったねえ」とか、言っていますね。こういうことが「言葉をくっつける」ということです。

さらに、大人の人が、こちら側のことも子どもに伝えてあげたほうが子どもがわかりやすいのではないでしょうか。親の状態が安定していて、自分の内面の動きを子どもにわかりやすく伝えることができるといいと思います。保育者が自分の内面の動きを子どもに伝えるのもよいでしょう。「先生も今うれしい」とか、「先生も今ちょっとびっくりしちゃったんだけどね」とか、「最初は緊張していたけど、だんだん慣れてきたら先生も楽になってきたわ」とかです。内面につけるいろんな言葉がありますけれども、それを保育者が子どもにしてあげると、「そうか、そうか、そんなことを思っているんだ」と、わかるということです。

図3

このような相手の仕方に、「映し返し」という名前をつけている人がいます(図3)。

そして、まとまりができてくることを、「自己の組織化」というふうに言っている人もいます(図2)。

図3のような対応を大人がやっていて、十分にこれをしてあげると、興奮状態がおさまってきやすくなるわけです。最近、「キレやすい」などという言葉がありますけれども、キレやすい子どもは、「興奮状態をおさめきれないまま大きくなっている子ども」ということです。

興奮状態は言葉だけで鎮まるわけではありません。抱き抱えて、なだめる。興奮を鎮めて、そして皮膚に包まれて、興奮がだんだん静まっていくことを体感する、これが大事です。体感すること、そこに、「なんか腹が立ったねえ」「何か悔しかったよねえ」「本当に思い出すと今でも腹が立つねえ」という言葉をくっつけることです。体も含めて、言葉もうまく使ってかかわることが、興奮しにくい子どもを育てることにつながります。

特に障害のある子どもたちは、周りから見ると、わかりにくい行動をしています。でも、その行動は子どもにとっては意味があります。大人がその行動の意味を理解して、「これこれこうなんじゃないのかな」と言いながら接するということです。このようにしていると、「だからこんなことをしているんだよ」と、子どもが自分でもわかってくることになるわけで、こういうことが心のまとまりをつくるということにつながるのです。

以上、関係で安心するとか、わかってもらえるということのほかに、心のまとまりをつくっていく。そのための言葉の使い方ということをお話ししました。終わります。どうもありがとうございました。(拍手)

前川どうもありがとうございました。

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