スマホ・ネットゲーム中毒(依存)—電子機器が子どもを取り囲む恐怖—
こども心身医療研究所・診療所 所長 大阪総合保育大学 名誉教授 冨田 和己先生
Ⅳ 対策は…
1. 最善は予防
当たり前の子育てをする(3)のが予防です。紙数の関係で要点だけになりますが、子どもが生まれた後2年間の「なめるように可愛がる」主に母親による子育てが第一歩です。私たちの所を訪れる子どもの何人かは、この時期に温かい家庭と、母親が安心して子育てできる環境が失われています。なめるように可愛がった後には、社会には年齢に応じて「守るべきもの」「従うべきもの」があると教える父親的育児、簡潔に言えば躾※が必要になります。愛情(優しさ)をたっぷりもらい、躾(厳しさ)を適切にされて育てられると、子どもは思春期の反抗期にも、基本的信頼感と自尊心が備わっているので、反社会的行動(非行)をとらず、電子機器の親による制限にも従います。基本が育ってきた子どもは中毒にまでならないのです。「三つ子の魂、百まで(三つ子は数え年の時代の格言だから満年齢では2歳)」と「鉄は熱いうちに打て」なる格言に示されたように、乳幼児期の大切さを再確認して欲しいと思います。
冒頭に子どもは遊びで成長していくと述べましたが、幼児期から学童期にかけては、ブリューゲルの絵に描かたように集団で体を使った戸外での遊びが貴重で、ここでは感覚、主に触覚が重要な役割を果たします。母性的優しさと父性的厳しさを経て、この体・感覚(特に触覚)・集団を生かした戸外の遊びで成長する重要性が、現代では忘れ去られ、失われているところに電子機器が次々と開発され数十年が経ちました。現代っ子は、時間さえあれば室内の電子機器で遊び、触覚も集団も失い、使うのは視覚・聴覚と反射的に素早く動く指先だけになっています。
※躾… 漢字でなく日本で作られた和字で、「身」を「美」しくする姿を表す。江戸時代末期から明治初期にわが国を訪れた欧米人は「日本の子どもは世界一素晴らしい」と絶賛した(1)のは可愛がられながら厳しい躾をされていたからである。現代は「親が恥ずかしいことをして平気な時代」になっている。躾が当用漢字から省かれ、ひらがなで書くのも象徴的。
2. 現実(具体的)対応
幼児期から絶対に電子機器は与えないようにします。親や子どもに関わる職業の者が、無駄な通信・情報収集に熱中していてはお手上げですから、仕事でのみ使う姿勢を子どもに見せなければなりません。
幼稚園や学校で使う場合には、あくまで勉強専用と考え、使用に厳重な制限を付けます。電子機器を小さな頃から使えなくても、わが国の学問・研究領域が世界に遅れることは絶対になく、社会人や研究者になってからで十分です。本稿執筆中に今年も日本人のノーベル賞受賞者が発表され、世界的にみても日本人の受賞者数は多く、誇らしく嬉しいのですが、歴代の受賞者はパソコンを成人してから使い始めた世代であると強調しておきます。子どもに必要なのは、本を読ませ、鉛筆を使って手紙や作文(日記)を書かせ、辞書や参考書を使ってわからないことを調べさせ、更に難しいことは図書室(館)に行かせることでしょう。教育が時流に乗って安易に走り、基本や理想を忘れては、健全な子どもが育つわけもなく、世界に誇れる研究もできないのでは、と懸念します。
3. 子どもが中毒に近い状況の時
スマホやネットゲーム中毒だけに注目せず、先に指摘した育児の基本(3)を思い出し、親である自分たちに何が欠けていたか考え、その改善・修正を出発点とします。現時点で修正できないものも、できるものもあるので、先ず修正を考えて、それを基本に、今わが子にいかなる対応が必要か、応用問題として考えていくことです。これのできない親が増加しているのは、ここまで述べた理由によります。難しいかもしれないが、わが子のために必死の努力をし、時には専門家の助言も求めることです。
参考文献
- (1)渡辺京二:逝きし世の面影(平凡社ライブラリー)
- (2)橋元良明:調査から見た日本のネット依存の現状と特徴.「教育と医学」1月号(2015)
- (3)冨田和巳:小児心療内科読本-わたしの考える現代の子ども(医学書院)
※筆者の子育ての基本を詳しく知りたい方は(3)を参考にして欲しい。本書は専門書であるが、一般の方が読むことを想定して「心身症」「発達障碍」などと「子育て・家庭・教育・文化・歴史」を詳しく述べている。
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