設立80周年記念 第35回母子健康協会シンポジウム(東京会場)
「保育における言葉とコミュニケーション」子ども達と保護者と共に育ちあいつながりあう保育
コミュニケーションの基本-聴き方と話し方
東京慈恵会医科大名誉教授 前川 喜平先生
1.保護者とのコミュニケーション
保護者とのコミュニケーションは、電話、スマホ、携帯などは事務的な連絡のみに使用します。生身の会話を原則とします。きょう熱が出て休むなんていうのはしかたがないです。もう一つは、日ごろから保護者と挨拶をして、声がけをして、顔見知りになることが大切です。
それから、初めて保護者と会うときは、まず自己紹介です。何とかちゃん担当の保育士の何何です、きょうは何とかちゃんのことについてお話をしたいのですがよろしいですか、必ず最初に自己紹介と要件を話します。
たくさんの子どもたちを預かっていると、「あのお母さんは」とか、「あのお父さんは」とか、「あの子どもは」とか保育士さんたちでいろいろ噂話をしますよね。だけど、話すときには、決めつけや思い込みなどの先入観を持たないで話して欲しいのです。誰の話でも平等に聴くように心がけることが大切です。
どうしても感情的に先入観が捨て切れないときには、「どうしてこの人はこういうふうになっているのだろう」とか、「どんな育てられ方をしたのだろう」とか、「どんなご主人を持っているのだろう」とか視点を変えてみてはどうですか。心の中で視点を変えると、わりと会話が順調にいくこともあります。それから、態度は、あくまでも肯定的な態度です。最初から、いけないとか、何とかしてやろうなんて思って否定的な態度で接すると、話は旨く行きません。話の最初は「お子さん何人ですか」、「きょうは寒いですねえ」とか、「寒いのに、ここへどうしていらっしゃいましたか」とか、答えやすい話から始めるのです。
それから、一度で話しを解決しようとは決して思わないでください。難しいことがあったら、同僚とか、先輩とか、園長に相談するのも一つの方法です。
保護者とのコミュニケーションは、最初は傾聴、話を聴くことに徹する。相手の気持ちを聴いて、わからないことは、「そうおっしゃいましたが、それはどういう意味ですか」とか、相手の言葉で尋ねるということです。
保護者に対して皆様に持ってほしい態度があります。保護者がどうであれ、全面的に受け入れることです。保護者がこの事が判ると、皆様が傍に居るだけで気が休まり、なんでも話せる関係になります。皆様が保護者と話をすることが、保護者がそれだけで心が休まるような人になってほしいのです。これはなかなか大変です。それはどういうことかというと、保護者がどんなことであれ、保護者全体を受け入れると、安心して、あなたがそばにいるだけで気が楽になるということです。子どもも大人もそうですけど、現状では絶対ないのです。だから、いろんなことをすれば必ずよくなるという希望を保護者に与えて欲しのです。最後は問題があったときに、他の機関と連携して解決するために相談に行く、一歩踏み出す勇気を持って欲しいのです。ほかの人たちと一緒にいろいろなことをしますが、そのときに、自分が動かなかったら誰も動か ないですよね。それをするために一歩踏み出す勇気をもって子どもたちと保護者とともに育ち合い、つながり合う保育を行って欲しいと思います。
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