設立80周年記念 第35回母子健康協会シンポジウム(東京会場)
「保育における言葉とコミュニケーション」子ども達と保護者と共に育ちあいつながりあう保育

総合討論(1)

前川それでは、後半の総合討論に入りたいと思います。

皆様からたくさんの質問が来ております。それをもとにして、シンポジストの先生方と討論を進めたいと思います。

吉田先生にお願いして、答える人を指定していただいて進めたいと思います。質問によっては、3人、意見を言う場合もあると思いますけれども、よろしくお願いします。

では、吉田先生、よろしくお願いします。

吉田皆さんからいただきました質問票を3 人で見まして、割り当てました。片野先生には、保育園の現場に近いこと、私のほうは、乱暴とか、キレやすいとか、親御さんに心の病があるとか、そういうところを分担しました。

では、私から。

こういう保護者の方も多いだろうと思いますけれども、「保育者と余りコミュニケーションを取りたがらない保護者がいる。どうしたらいいでしょうか」という質問です。皆さんがそういう保護者だったら、どうしてほしいでしょうか。

皆さんが保護者で、余り保育者とコミュニケーションを取りたくない人だったら、あるいは、私がこの保護者だったら、必要最小限にかかわってくれればいいと思います。余計なことをされるよりは、それで事足りているし、困ったことがあれば、一応話はするけれども、別に困らなければ、「そっとしておいて」と。そういう、私のような保護者でもちゃんとここは置かせてくれる場所だなと、そういう感覚を持ちたいと思いますけれども、いかがでしょうか。「私でも居ていい」ということなのですけれども、もっとしつこくかかわりたいという保育者の方もおいででしょうか。

どれくらいしつこくかかわりたいかというのは、自閉症の子どもを担当してもらうとわかります。自閉症の子どもは、保育者が近づくとスッと離れたり、ちょっと距離を置くのが普通です。近づきたいと思っている保育者は、子どもにそういう態度をとられると非常にしょげてしまう、がっかりしちゃうんです。でも、かかわらなくても、そこそこでいいじゃない? と思っている人は、そういうおつき合いもいいんじゃないの、この子がちょうどよければいいんじゃないのと思って、おつき合いするんですね。ですから、自分がどれくらい人と近づきたいと思っているか、そうでないかというのは、自閉症の子どもとつき合うとわかる、そんなことがあります。私みたいな保護者だけど、ここに置かせてくれるというのが、楽かなと思います。

それから、「保護者の方に心の病があるけれども、どうしたらいいでしょう」という質問です。このような質問は多く、ほかの保育の研修でもよく出てきます。あるいは、その子どものことについて、事例を取り上げて一緒に話し合っていくと、実は保護者がうつとか、統合失調症とか、そういうふうな話が出てきます。

そういう人とつき合うときに、まず、その人たちは病気を持っているけれども、とっても一生懸命頑張っているんだと思うようにします。できるところでとにかくやろうとしているんだなと思ってあげます。そして、あれができない、これができないというふうに見ますけれども、でも、こんなことはやっているし、あんなこともやっているし、大変だけど頑張っているなと思って、深入りしないようにしてつき合っていきます。これが無難というか、一般的なかかわり方だと思います。

かかわりすぎると、保護者も保育者も両方困ってしまうことが多いですので、できるだけ様子を見ながら、何か手助けをすることがあったら手助けしますという、そういうことをお伝えしながら、様子を見ながらというのが、一般的だと思います。

それから、「キレやすい子、乱暴する子」についての質問です。死ねとか、馬鹿と言う。先ほどスライドの中でお話ししましたけれども、どういう子どもが乱暴なままになっていくのか、どういう子どもは乱暴しないで自分をコントロールできるようになっていくのか、そういう研究がたくさんされています。

赤ちゃんのころに、よく抱っこされていて、そして泣いたときに抱っこされて、体の興奮を鎮めてもらうことが多いこと、これは大事なことですね。それでも小さい子どもたちは、腹が立って蹴飛ばしたり、たたいてみたりします。それが2 歳、3 歳ぐらいまで続きますけれども、4歳になるとだいぶ落ち着いてきます。それは、言葉で言える力が伸びてくるとか、自分が怒っているというふうにわかって、それを何とかしようという気持ちが芽生えてくるとか、そういうことがあるからです。つまりからだの興奮をおさめることが上手になっていることと、怒っているという気持ちがわかって、何とか抑えようという気持ちがわいてくること、これが大切なことです。そのため、周りの大人から、「そんなに怒らないのよ」とか、「怒っているんだね」とか、「悔しいけどね」と、話しかけてもらいながら、長くつき合ってもらいながら、だんだん怒りが静まってくる、そういう時間を持つことが大切です。

中には、放っておくと、一人でおさまったから大丈夫かなという子どももいますが、そういう子どもは感情発達が悪いですので、おさまったからよかったというのではなく、「おさまり方」が問題なのです。かかわってもらいながら、おさまっていく、自分の気持ちをだんだんわかりながら、おさまっていく、自分の正当性や怒りを言いながら、おさまっていく、そういうプロセスが多いほうがいいということになります。これが多くないと、キレやすいままで行くことがあります。

家庭について言うと、家族の中で「怒りが連鎖する」という言葉があります。子どもがイライラしていると、お母さんもイライラして、そこにやってきたお父さんもイライラする、これを「怒りの連鎖」と言いますけれども、こういう怒りの連鎖が見られるおうちの子どもの感情発達、感情コントロールは、余りよくないということがわかっています。家庭の中で、そして保育の場で、おさまっていくように相手をしてあげるということが大切です。

それから、この子は、興奮してたたくぞというのがわかったときに、「動作法」の一つですけれども、「ちょっと待って」「だんだん怒ってきているけど、ちょっと待ったら」とか、「待て、待て、待て」「イライラするねえ」とか言いながら、軽く体をおさえておいてあげて、爆発を防ぐといいますか、そういう対応も大事です。爆発したら今度は、おさまるまでちょっと待って、「こっちへおいで」と言って静かにお話をして、「腹立ったねえ」とか、「カッときちゃったよねえ」と言う。これが気持ちに近い言葉ということになります。

「たたいたから、あの子泣いているよ」と言うと、その子の気持ちから離れていますね。そうではなくて、その子の気持ち、たたいたほうの子どもの気持ちに近い言葉をたくさん言いながら、なだめるということです。「どうしてかわからないけど、なんか急に腹が立ったみたいだよね」とか、「何で腹が立ったのかなあ」と、想像してみる。そして、「そうか、そうか、何々ちゃんが邪魔したから腹が立ったんだね」「悔しかったねえ」「うまくいくと思ったのに、邪魔が入ったからうまくできなかったね」とか、そういうように気持ちに触れることをずっと話しかけるということです。

当然、たたくとほかの人も困るので、「たたかないで、怒ったら怒ったと言って」というふうに教えたりもするわけです。たたかないで、「怒ったぞー」と言えればいいわけで、「そうしたらいいんじゃない?」というやり方も教えるわけです。そして、「だんだんとこのごろおさまってきたねえ」「このごろ、ちょっと我慢できるようになってきたねえ」とほめることもします。

それから、カーッとなって、その後でパタンとおさまって静かというのは、これは余りよくないと思います。それはなぜかというと、自分の内側で起こったイライラを感じながら、それがだんだんおさまっていくのを自分が感じている、ということがないからです。 自分のイライラがあって、だんだんとおさまり方を感じて、だんだんおさまってきたなあとか、またぶり返してきたなあとか、またおさまってきたなあ、というのを感じながらおさまっていくプロセスが発達につながるということなのです。

ですから、プツンと切れて、ハイおしまいというのはよくないと思います。「ブツブツブツブツ」、「腹が立つ、腹が立つ」、「悔しい、悔しい」と言うのも、いいことなのです。尾を引きながらだんだんおさまってくるのも、発達の面からいうと面白い。「このごろ、ブツブツ言いながらおさまっていくよね」みたいなことがあると、面白いということですね。

これが、キレやすい子ということになります。

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