1.新しい授乳・離乳食の考え方…「授乳・離乳の支援ガイド」2019年改訂版から…(2)

今のはどちらも動物でしたけれども、次は人でどうかというと、これはイギリスの研究で、出生体重とその方が将来、心筋梗塞で亡くなる確率を見た、いわゆる疫学データですね。それを見てみると、左が女性で右が男性です。横軸は体重なんですね。ポンドなので、3ぐらいで割っていただくとちょうどなんですけれども、大体この辺が3キロになるかなというところなんです。これを見ると、明らかに生まれたときの体重が小さければ小さいほど、心筋梗塞で亡くなる確率が高いんですね。要するに、胎児期の環境が成人になるまでちゃんと影響を残しているという証拠なんですね。

出生体重と虚血性疾患による死亡のリスク(疫学データ)

実は、人のデータがあって、先ほどのネズミの実験をやったんですけれども、ともかく我々は栄養の影響を一生受け継いでいるのではないかということを示唆するデータですね。

決定的に栄養と将来のいろいろな合併症の関係を報告したのが、このオランダでの飢饉。ナチスドイツがオランダに進行したときに、そこで食事制限をしたんですね。そうすると、そのときたまたま妊娠していた妊婦さんがたくさんいらっしゃったんですけれども、そこから生まれた子供たちは、先ほどのネズミの実験と同じように低出生体重児。今度、その子供たちが成人になるまで追っていくと、先ほど、心筋梗塞が多かったというデータを出しましたけれども、同じように肥満や、乳がんや、精神障害、心筋梗塞の頻度が上がったという、ある意味、人での人体実験のようなデータがあるんですね。ともかく胎児期の栄養がずっとその人の一生を左右している。

ヒトでの事例

これは、ご存じの方も多いと思うんですが、DOHaDというセオリーなんですね。要するに、我々はある程度運命として遺伝子で規定されていますよね。それは、当然、両親から受け継ぐ遺伝子で、それは自分ではどうしようもない。要するに、持って生まれた性質になりますね。ところが、ほかのことはある程度、いろいろなことで変わることができるんですけれども、実はこの遺伝子が運命を決めるのと同じぐらい、環境というのも、我々にとっては重要な将来を決める因子なんですね。

環境因子が遺伝子によらない、世代間連鎖を生む

ここにあるように、お母さんの環境、あるいは発達時期、要するに乳幼児期の環境というのは、その人の将来を決める。さらに、ひょっとすると、その後も、ある程度それを受け継ぐかもしれない。こういうものを世代間連鎖と言うんですけれども、遺伝子以外も、実は世代間連鎖をして、親から子に影響を与える。その1つの重要な要素が栄養であるということで、ぜひ栄養の重要性をわかっていただきたいと思います。