2.食物アレルギーの考え方…制限食をやめましょう…(6)

それと、もう一つあります。人には自分の体を守るために、過剰なアレルギーが起こらないように抑える機能があります。この図を見てください。非常に重症の卵アレルギーのお子さんだったんですけれども、治療をしたら2年ぐらいたって加熱卵は食べられるようになりました。その後、外来でずっと経過を見ていたんですけれども、IgEの抗体は、症状がよくなっているのにまだ高いですよね。IgEがあっても、体の中で抑える働きが出てくれば症状が出ないんですね。経口免疫療法でよくなっていても、3年から5年、長い人はもっとIgE抗体が残っている。

それを、例えばこの段階で調べますと、治っているのにIgEが高いということになりますね。そういうわけで、IgEだけで診断すると、過剰診断=アレルギーでないものをアレルギーととり過ぎてしまうということになります。

これは自然経過でも起こっているのではないかなと、僕は思っています。感作がなかったという人もいますし、アレルギーの準備状態である感作はあったがアレルギー症状は出なかったという人もいるでしょう。IgEが上昇し、軽度な症状はあったが、すぐでなくなった場合もあるでしょう。後者2つは、症状はないがIgEが陽性になるわけです。実際に、卵で症状のない人を10人調べたら1人ぐらいIgEが高かったというデータもあります。

さて、感作されてしまいました、発症してしまいましたという場合ももちろんあります。でも、1年、2年待っている間に免疫寛容という働きが出てきて治ってしまうことが多いんですね。それでも、IgEは高いままなんてことがあります。3歳ぐらいまでに卵のアレルギーは6~7割程度治りますけれども、そういう方の中にはIgEがまだまだ高いという方が結構いらっしゃると思います。ここで自然治癒しなかった方に関しては、少しずつ食べて治す経口免疫療法を考慮することになります。ただ、保育園に預けなければいけないから早めに治してくださいなんてこともあります。

さあ、これで今日の楠田先生のお話とつながっていくんですけれども、妊娠・授乳中の食物摂取はアレルギーに影響するのかという問題です。

妊娠中、授乳中の母親の食物除去には、食物アレルギー発症の予防効果はないとわかっています。妊娠中に食物除去を行っても、アレルギー発症は減少しません。これは、楠田先生もおっしゃっていましたが、栄養面で不利であるという可能性がある。胎児感作、胎内感作は以前よく言われたんですが、結局よくわからない、すなわち明確な証拠はないと考えてよいでしょう。

それから、母親が授乳中に食物除去を行っても、アトピー性皮膚炎の発症は減少しない。既にアトピー性皮膚炎が発症している場合のみ、一部の方で授乳中の除去をすると軽くなる場合がある。これに関しても僕は否定的な意見で、きちんと外用剤を使えばアトピー性皮膚炎はほとんどよくなりますので、除去が必要となることは少ないと思っています。

また少し難しいグラフで申しわけありませんが、妊娠・授乳中に食物除去を行っても、アトピー性皮膚炎やぜんそくの発症には差がないということが書いてあります。小児のアレルギーの専門医が最初に除去ということを強く言い過ぎたのかもしれません。アレルギーの発症が環境などの要因からどんどんふえてきて、これはまずい。一旦除去しましょうと。その判断は、間違っていなかったと思うんですが、過剰になってしまったんだろうと思います。その反省に立って、きちんとデータを集めて、証拠をどんどん集めて、結果を出すということを世界の医師が行ったわけです。それで、こういう結論になったわけです。

最近、興味深い論文が出てきました。まだこのような論文は少しだけですので検証が必要ですが、母親が妊娠中に卵や牛乳の除去を行うと、子供が30歳のときにぜんそくや湿疹が多くなるというものです。安易に除去はしないほうがいいんだというのを、もっと強く言わなければいけなくなるかもしれませんね。