3.総合討論(2)

それでは、アレルギーのほうが、いろいろ細かい点でのご質問が多かったようですけれども、すみません、小林先生、質問をまず最初に言っていただいて、お答えをいただけますか。

小林

たくさんの質問をいただいたんですけれども、個別の患者さんのことに関しては、1人1人違うのと、僕が直接診ていませんので、確実なことは答えられません。一般的な話として答えさせていただきます。

個別対応の話です。「解除届の食品名の書き方は『卵・乳』なのか、『ハム・ベーコン』なのか」

「卵・乳」です。「ハム・ベーコン」には、もちろん卵や乳が入っていますが、入っていない製品もありますし、量はわかりません。そもそもそんなことをしていたら間違いが起きます。大きく「卵・乳」、それが完全除去なのか、食べられるのか。卵は加熱か、加熱でないかぐらいはやってほしいですけれども、やはり個別対応は、可能な場合以外は基本的にしないほうがいいと思います。

大豆アレルギーのお子さんで、「着がえをしていらっしゃる」ということですが、負荷試験で10グラムまで食べられる。これは、豆腐でしょうかね。10グラムといってもいろいろ食材がありますけれども、10グラムまで食べて症状が出ていない人であれば、基本的には別の着がえは必要ないと思います。これは、ドクターが何らかの理由があって(例えば接触や吸引で症状がでるなど)そういう指示を出しているのならば、ちょっと僕のほうでわかりかねます。一般的な話としては、これだけ食べていれば、そこまでしなくてもいいんだろうなと思います。一度主治医と話してみてはどうでしょうか。

「エビ、カニアレルギーのシラス、ワカメ」、これはよくある質問なんですよ。小さいやつですね。例えば2センチのエビに比べて、シラスに入っている2ミリぐらいのエビの比較としましょうか。2センチのエビに比べて、2ミリのエビが持っているアレルゲンの量は、体積で1,000分の1です。ということで、よっぽど敏感な方、重症者の方以外は、シラス、ワカメを除去する必要はありません。

さて、「サバよりも先にアレルゲンが低い(注:アレルゲンはタラの方が多い)タラを提供していることがありましたが、これはよかったのか」ということですけれども、これは、よく誤解があるんです。サバではヒスタミン中毒が起こりやすい。先ほど、ヒスタミンという物質があるという話をしましたけれども、それも子供さんにとっては問題です。こども園で何人かがヒスタミン中毒を起こしたという事故などがありますので、そういう観点からは、サバが最初でないほうがいいと思います。アレルギーの観点からいくと、タラもそんなになめてはいけないよということなんですね。

それと、魚はちょっと難しいです。水で煮ると、水の煮汁のほうにアレルギー物質が移動しますので、タラ鍋のタラは大丈夫な方とかが結構いらっしゃるんですね。これは、個別に難しい問題がありますので、とりあえず今の白身魚から順番というので構わないと思います。もっといろいろ細かいことがわかったら対応するということですね。

アレルギーを持っていない園児にも、保育園で初めて食べる魚や肉は、食べてもらってから園で食べるというやり方のほうがよいのか。魚に関しては、イワシやサバなど、種類ごとに聞き取りをしたほうがよいかということですが、これも魚の難しい面です。魚のアレルギーを起こしているのは、魚に共通に含まれているパルブアルブミンという物質です。だから、1種類でも、2種類でも、食べていれば多くの場合、大丈夫です。タラ、サケ、イワシ、よく食べますよね。まずは、この3つぐらいでいいですよ。マグロは(アレルゲンが)少ないです。もちろん何でも例外がありますので、100%と思わないでください。というわけで、全ての聞き取りをする必要はありません。何種類か食べていますか。それでいいと思います。

ラベリングに関してですね。「色分けは、アレルゲンごとにする必要はありますか」。できれば理想ですけれども、実際難しいですよね。可能な限りで、無理をする必要はないでしょう。予算的に無理であることもあるかもしれません。ラベリングは、例えばお子さんごとにでも全然構わないと思います。そこは、慎重にやっていただければいいので、できる範囲でいいです。無理をすると、絶対事故が起きるんですよ。だから、そこは余りプレッシャーに感じないでください。僕は理想論だけ言ってしまいました。

「口の周りが赤くなるというのは、アレルギーではない。唾液による接触皮膚炎とお話をされていましたが、口の周りが赤くなる原因物質はどのようなものなのでしょうか」。これは、皆さんご存じではないですか。濃いみそ汁を初めて食べるとか、しょうゆで煮つけたものを食べると口の周りが赤くなるとか。有名なのはトロロイモです。僕は好きでかゆくなっても食べていますけれども、いろいろな自然界に存在する刺激物質が口の周りを赤くします。しかも、子供さんは唾液を出しますし、皮膚が弱いんですね。大人より数段弱いので、そういうものが出やすいんです。というわけで、そういう物質はたくさんあります。もちろん即時型アレルギーの場合もありますが、余り気にしなくていいと思います。すごくかゆくて困っているとか、炎症を起こして、そこから汁が出ているとか、そういった場合は治療する必要があります。

「妊娠・授乳中に食物除去を行っても、アトピー性皮膚炎の発症の差はないということは、可能性が少しはあるということか」。これは、質問の意味がよくわからないですが、可能性に関しては変わらない。除去しても、しなくても変わらないと思ってください。ただし、最新の報告では、除去することによって、子どものアレルギー疾患がふえるというデータがちょっと出始めてきています。

アレルギーの先生は昔、除去しろ、除去しろとすごく言われましたけれども、今日の小林先生のお話は、除去すると、むしろデメリットがある人がいる。除去の必要な方はいる。除去が必要な方はいるけれども、むしろ恐れるばかりで除去してしまうとかえってマイナスのことがあるというお話と、私たちアレルギー専門以外の小児科医も理解しているんです。なかなかそのあたりはわかりにくい部分もあるのかもしれないですね。

小林

わかりにくいですね。それで、医者によって言うことが違いますよね。いまだに厳密な除去をやられている先生もいるんですよ。そのおかげで栄養失調になってしまったなんてことも過去にはありました。「帝京に相談に来てください」、これしか言いようがないんだけれども(笑)、最初はアレルギーが増えたことから始まっているんですね。世の中が清潔になり過ぎ、感染症が少なくなって、そのおかげでアレルギーが増えているんです。文明化した代償としてアレルギーがふえてきた。アナフィラキシーも増えた。それで、びっくりしたわけです。それで、とにかく除去しましょうという流れになるのは当然だったと思います。一旦そっちにがーっと行ったんですよ。「いや、ちょっと待てよ。食べている人が治っているな」というのに、20年前に医師が気づき始めたんですね。それをこつこつと研究してきて、「いや、食べたほうがいい」という結論になったんですね。長い歴史を経て、そうやって右、左に揺られながら結論が出てきたということなので、一般の方には、確かにわかりにくいかもしれません。

楠田

1つ。妊娠中の食事制限は、アレルギーだけではなくて、当然胎児発育に重要ですので、これは絶対進めてはいけない治療法というか、予防法になると思います。