タバコは「不幸の連鎖」をもたらします(図4)。若い女性の喫煙率は未だに上昇しており、妊娠中も吸い続ける妊婦が少なくありません。妊娠中に喫煙すると、生まれてきた子どもの知能が低下する、落ち着きのない子になりやすい、問題行動を起こしやすい、などのデータが出ていますが、このような子どもたちは親からみると「育てにくい子」です。そして、こういう子は育児困難から虐待を受けやすいことがわかっています。いわゆる「発達障害児」は、生まれてくる子どもの3〜5%程度と言われますが、虐待を受けた子どもたちを調べると、その約50%は発達障害があるのです。
よく「子どもの体にタバコの火を押し付けて虐待した」というニュースを聞きますが、それは偶然ではありません。タバコと虐待の間には深い関係があり、子どもを虐待して傷つけたり殺したりする親の多くは喫煙者だと言われています。
もちろん虐待事例の全てがこの図式に当てはまるわけではありませんが、ごく普通の女性が、たまたまタバコを吸い始めたばかりに、将来わが子を虐待する結果を招く、という悲劇は十分起こり得るのです。
そして、虐待を受けた子どもたちは、たとえ命は失わなくても心に深い傷を負いますから、タバコや薬物に手を出しやすくなります。そうすると、いつまで経ってもこの悪循環はなくなりません。どこかでこれを断ち切らないと、不幸な子どもたちや悲惨な虐待事件が増え、日本の将来も危うくなります。
タバコと虐待の関連については、もう一つ要因があります。それは経済的問題で、虐待家庭の多くは経済的困難を抱えています。そして、わが国では年収が低い人ほど喫煙率が高いのです。貧しい人ほど多額のタバコ代を使い、ますます経済的に苦しくなっているという現実があります。これを「スモーキング・プア」と呼んでいますが、1日1箱吸えば年間のタバコ代は10万円を超え、両親ともに喫煙していれば、年間のタバコ代が20数万円になります。年収200万〜300万円の家庭であれば、約1割がタバコ代に消えるわけです。
このような両親がタバコをやめることができれば、経済的に余裕ができ、虐待をくい止める一助になる可能性もあります。若い両親への禁煙支援は、虐待予防につながるという点でも非常に重要なことなのです。