財団法人母子健康協会 第30回シンポジウム 「保育における食物アレルギーの考え方と対応」
2.「乳児期の食物アレルギーへの対応」
国立病院機構相模原病院臨床研究センター アレルギー性疾患研究部長 海老澤元宏先生
食物アレルギーに関連した患者側の問題点と解決法
食物アレルギーに関連したコメディカルに求められていること
それと、皆様方が食物アレルギーに対して正しい知識を持つことも絶対必要です。そのためには、わかりやすい本をぜひ一度は読んでほしいと思います。私の一般向けの著書では「子どものアレルギーのすべてがわかる本」(講談社)、「子供が喜ぶ 食物アレルギーレシピ100」(成美堂出版)があります。前者はアレルギー全体について、絵が入っていて、わかりやすく書いてあります。後者は、特に変わった対応をしなくても食物アレルギーの対応はできますということを、うちの病院の栄養士と一緒に書きました。いまコンビニエンスストアだって、スーパーだって、食品表示がちゃんとなされていて、卵、牛乳、小麦が入っている、いないということが書いてあるわけです。それを使ってちゃんと対応してあげれば別にいいわけであって、自然食品のお店で特殊な何かを買ったりすることは必要ないわけです。もっと簡単にできます。
例えば、「預かっている子どもが、魚、肉、大豆、小麦、卵、牛乳、全部、摂ることができない。何か摂らせるとすぐ症状が出てしまう」と。そういう対応の必要が通常あるかというと、よっぽど重症例で、赤ちゃんの最初のときにあるかなというぐらいです。私たちが診ると、ほとんどそういうことはなくなります。
どうしてかというと、私が最初に「乳児期の対応」と書いてありますが、子どものときの食物アレルギーの九割がゼロ歳のときに発症します。そのうちの九割はアトピー性皮膚炎に合併しています。そうすると、アトピー性皮膚炎を合併している状態で食物アレルギーを診断しなさいというと、これは私でもできないです。
なぜかというと、例えば赤ちゃんに湿疹があると、授乳するだけでも赤ちゃんにとってはすごい運動ですから、体の温度が温まります。そうすると、それだけでも湿疹はかゆくなってしまいます。お風呂に入れます。お風呂に入れて皮膚の温度が上がりますね。それだけでもかゆくなりますよね。そうしたときに、その前に離乳食を食べたという状況があったとしたら、どうなります? 「あ、さっき与えた魚だったかな」とか、「さっき与えた肉だったかな」、そういう話になるんですよ。
そういう人たちが私たちのところにたくさん来るわけです。図3のフローチャートを見てください。私たちは、そういうお子さんを診ると、「まず、湿疹を治しましょう」ということから入ります。湿疹を治そうとしたときに何をするかというと、ステロイド外用療法という薬を使うことと、あとはスキンケアといって、自分の汗とか、よだれ、涙にも、そういう湿疹があると負けてしまうことがありますが、それをきちんと石鹸できれいに洗い流す。洗い流すと、傷んだ皮膚にはバイ菌がたくさんついているから、そういうものをとってあげると、今度、軟膏がとてもよく効きます。
軟膏に関して言うと、基本的にはステロイド軟膏というのが、いま、唯一効果があると言われている軟膏です。だから、ステロイド以外の軟膏は、私たち専門医はほとんど使いません。そういう軟膏をきちんと使うということ。もし冬場で乾燥してきているようだったら、ワセリンの保湿をするとか、そういうことをちゃんとやるということをまず、最初にします。それですっきりよくなったら、食物アレルギーは関係ないですよね。
ただ、ずっとステロイド軟膏を続けていかなければいけないとか、軟膏を塗っても全然よくならないということは、私たちはよく経験します。そうすると、何かのアレルゲンがかかわっているのではないかと。これは室内のペットというのもあります。これは皮膚を通して感作が成立します。もう一つが食物です。食物のほうがたぶんウエートは大きいと思います。
赤ちゃんの場合に食物で一番多いのが卵、二番目が牛乳、三番目が小麦。昔は大豆と言われていましたけれども、大豆というのは実際にはそれほど多くなくて、大体その三つで赤ちゃんの食物アレルギーの9割ぐらいは説明がつきます。
では、「肉はどうか」という話ですけれども、肉というのは、要は筋肉です。私たちの体にすごく近いわけです、牛にしても豚にしても。私たちの体に近いということは、私たちの体に対して免疫というのはあまり反応しないんです。だから、通常、肉のアレルギーというのはあまりない。
魚はどうかというと、ないわけではないです。でも、一般の先生には、お米とお芋と白身魚は絶対反応しないと信じて疑わない先生がいます。ところが、それが原因だったということが、私のところに来て見つかったりということもあります。
だから、一人ひとり顔が違うように、一人ひとり原因は違います。統計をとると、卵が全体の赤ちゃんの食物アレルギーの9割5分ぐらい、牛乳が5割ぐらい、小麦が2割〜3割ぐらい。大体そんなウエートです。
表4「臨床型分類」の中で、いま私が話しているのが「食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎」というタイプの話です。その次に即時型症状と書いてあります。最初のスタートは、生後1カ月、2カ月、3カ月ぐらいに顔にすごくかゆみが強い湿疹ができて、眠れなくて困ってどうしようもないという、そういう状況が発生するわけです。
そういうときにお母さんは、初めてのお子さんだったりすると、育てるだけでも精いっぱいのところにそんな余計なものが来ると、パニックになってしまうんですね。そうすると、もうどうしたらいいかわからない。近くの先生のところに行ったら、「かかる先生、かかる先生、違うことを言われる」なんていったら、もう地獄ですね。夫は横で寝っぱなしで、一人で夜眠れなくてという、そんな状況になるとほんとノイローゼになりますね。
そういうことも理解してあげなければいけないと思いますけれども、でも、それを解決してあげるのは何かといったら、いまみたいな正しい対応方法をその人が知っているということが重要です。きょう、私がここに示したことは、実際にインターネットに出ています。インターネットの、厚生労働省の「リウマチ・アレルギー情報」ホームページとか、私たちが運営している食物アレルギー研究会のホームページとか、国立病院機構相模原病院のホームページとか、そういったところからダウンロードできるわけです。
世の中のインターネットを通している情報の中で、取捨選択というのはすごく難しいと思うんです。でも、厚生労働省とか、日本アレルギー学会とか、国立病院機構とか、そういうオフィシャルなサイトと、例えば一般の、通信販売などを扱っている商売目当てのウェブサイトと、全然違うわけです。でも、そういうパニックになってしまったお母さんというのは、何でも見ていってしまうわけです。そして、そこにはまってしまうということがあります。
私がいま話した食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎というのは、ちゃんと診断をつけてあげれば、ほとんど湿疹というのはなくなります。なくなった状態で離乳食に入っていってほしいわけです。離乳食に入っていくときに、アトピー性皮膚炎がひどいのに、そこで肉を食べさせたり、魚を食べさせたり、いろいろやってしまうと、そういうものに対してもIgE抗体をつくってしまうわけです。そうすると、私たちも「ちょっと困ったなあ」という状況になってしまいます。
私たちが食物アレルギーの診断をするのは、生後4カ月から6カ月の間です。そこが勝負。だから、一歳まで痒みの強い湿疹が続いていて食物アレルギー関与の判断がなされていないと「もう少し早く対応すれば良かったですね」と私は話します。だから、そこまで放置しておいてはダメで、離乳食を始める前にカタをつけたいわけです。
それから、そこでうまくカタをつけていったとしても、即時型症状というのがあります。これはどの年齢でも必ず、食物アレルギーの原因食物を食べたらじんましんがバッと出るとか、食べたら息苦しくなったとか、そういうタイプの反応が起こります。ここに乳児〜幼児、学童〜成人と書いてありますが、そういう原因物質が違っていろいろなものが出てくることがあるわけです。でも、赤ちゃんのときに出てくる食物アレルギーの数に比べたら、これはすごく少ないです。
だから、そのすごく少ないことを恐れて、何かを食べてはいけないとか、そういったことを私たちは一切指導しません。基本的に食物負荷試験で症状が出ないものは、すべて食べさせるし、「予防のためにやめましょう」とか、「IgE抗体が出ているからやめておきましょう」なんて、私たちは一切言いません。症状が出るものだけ制限する、食べられるところまで食べさせる、それが基本です。
だから、私はいつも患者さんには、必要最小限の食物除去ということを申し上げています。そういうふうな方針でやっていけば通常は何も困ることはないです。でも、それがなかなか実践できていない要因は、表1のところとか、表2とか、表3のコメディカルの方の問題とか、患者さん自身の問題、もちろん、これはお母さんのほうの問題もあります。一つ何かを食べてアナフィラキシーになってしまったら、それがトラウマになって食品が摂れなくなってしまうこと、これも私たちは理解してあげなければいけないことです。それは一度経験したことがあれば、「普通に食べるものでそんなふうになってしまうと思ったら、怖くて食べさせられないな」というふうになるのも当然です。
でも、気質的にそういうふうになるお母さんは分類されます。太めのお母さんはほとんどそういうふうにならないですね。痩せていて、こぎれいにしていて、非常に神経こまやかな方が大体そうなります。
普通、太めのお母さんは、私たちのところで「これ、やめておいてくださいね」と言っても、気がついたら食べさせちゃってるんですね(笑)。私は、「勇気あるね〜」って言うんです。「反応出て救急車で行っちゃいましたぁ」とか、「たまたま出なくてよかったんだよ」とか、そういう話をすることもあります。
私たちは短い外来の時間で勝負しますから、その方がどういう気質を持っていらっしゃるのかということも常に気をつけながらやっています。だから、皆さん方も、一人ひとりに対して同じアプローチというのは絶対成功しないと思います。人によって、どういう方なのかというのをよく見極めて、対応とか、話し合いも、されるといいのではないかと思います。
私の時間はそろそろ終わりに近づいてきました。ゼロ歳で発症した食物アレルギーを、その後、どうやって診ていくかということは伊藤先生が話してくれますけれども、最後の図4というところを見てください。「原因食物決定後の経過観察」と書いてあります。これは、さっきの太めのお母さんではないですが、「食べても全く症状がありませんでした」「たくさん摂ってもありませんでした」といったら、もうそれで食物負荷試験の代わりになるわけです。「あ、よかったですね。じゃあ、繰り返し摂ってみてください」と言って、それで終わりです。
「一度も摂ったことがありません。でも、最初にIgE抗体がすごく高くて、摂るのをしばらく控えていたんです」と、それは当たり前です。例えば、卵とか牛乳がIgE抗体100といったら、負荷試験を私たちがやったら100人中99人は出ますから、それを制限していくのは当たり前です。それは下がっていくのを待ってないといけない、ということになります。
誤食した既往もなく、IgE抗体がうまく下がってきたら、専門のところで負荷試験をやってみる。私は、3歳前に必ず一回はやろうねと言っています。あと、小学校に入る前も必ずやろうねと言っています。3歳前はなぜかというと、自分で、なぜ制限をしなければいけないのかということを子どもが意識してくる頃なんですね。それと、小学校に入るときには、必要最小限の食物制限にしていくことが重要ですから、そういうこともぜひ心がけていってほしいと思います。
あとは、伊藤先生に、食物アレルギーの幼児期の見方、それもすごく大切なことなので、引き継ぎたいと思います。どうもありがとうございました。(拍手)
前川ありがとうございました。これぞプロというお話だと思います。
それから、アレルギーの入園テストというか、面接には、ぜひ太めのお母さんということで(笑)。
それでは次に、具体的なことで、「幼児期の食物アレルギーへの対応」ということで、伊藤先生にお話をいただきます。先生、よろしくお願いします。