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財団法人母子健康協会 第30回シンポジウム 「保育における食物アレルギーの考え方と対応」
3.「幼児期の食物アレルギーへの対応」

あいち小児保健医療総合センター 中央検査部長兼アレルギー科医長 伊藤浩明先生

1.食事習慣の確立と栄養摂取

まず第一に、乳児期から幼児期に何が変わってくるかというと、当然ですが、食事するという習慣を確立する時期に入ります。ミルク、おっぱいから離れて、すべて食べなければいけない時期です。非常に神経質なお母さんたちはこの時期を逃してしまいます。これも間違った考えで、離乳食を遅らせれば遅らせるほどいいというふうに、一部、言われたことがありまして、「1歳過ぎるまで、形のある固形物を食べさせていません」なんていう方が稀に来まして、すごく苦労します。

1歳過ぎてから固形物を食べてみなさいという練習を始めても、その獲得がすごく悪くて、口に入れたものを咀嚼するということを自然に身につける時期というのは、乳児期の一部の時期に限られています。それくらいの時期に、いろいろなものの食感とか、味とか、固さとか、そういうことを経験していくこと、この基本が確立していることが何よりも大事です。それがなくて除去食の対応をしようとすれば、余計大変なことになるわけです。

多くのお母さんが、「卵や牛乳を使えないと大変」というふうに言われますが、本当はいろいろなレパートリーを持っていれば、卵、牛乳の除去というのは、少なくとも幼児期の最初くらいまではそれほど大変ではない、と言っていいかどうかわからないですが、やればできます。特別なことをしなくても、卵、牛乳を使わない料理のレパートリーというのはたくさんありますから、やればできるはずなのです。

表5 除去食に対応するための調理上のスキル

表5にどんな順番でアレルギーの除去食に対応していくかという順番が書いてあります。その第1は、そもそもそのアレルゲンを使わなくても平気な、特に和食を中心にした料理のレパートリーがどのぐらいありますか、ということです。

2番目は、ちょっとした工夫で材料を変えれば事足りるもの。例えば、唐揚げの衣には小麦粉をまぶすのではなくて、片栗粉をまぶしても同じようにつくることができる。そういうほんのちょっとした工夫で対応できるわけです。1番と2番で卵、牛乳の除去は十分できます。

3番目に、お買い物をするときに、アレルゲンの入っていないものを表示で見て選べばいい。選べるものはたくさんありますし、例えば数年前までは、ピーナツバターの入ったカレールーが商品の8割方ありました。ここ最近、商品を見ていますと、ピーナッツを使ったカレールーは随分減ってきて、いまは2割ぐらいではないでしょうか。各メーカーがそういう方向に対応しています。表示をきちんと見ることで選べる食品が増えてきています。そういうことをやっていけば、少なくとも卵、牛乳まではできます。

小麦の除去が入ってくると、少し特殊な食材、あるいは使い方を手に入れないと、やはり食生活の幅が狭まってしまうということで、4番目、少し特殊な情報を持って、例えば完全な米粉パンを手に入れたらサンドイッチが食べられるとか、そういうことがあります。

最後の5番目はコピー食です。昔からアレルギー食というと、アワ、ヒエ、キビというのが代名詞のように、アレルギー食対応しますというとヒエクッキーを出さなければいけないかのような、そういう認識のされ方がされていたと思いますが、決してアレルギー対応というのはそうではない。もっと自然なところにできることがあるはずだ、というふうに思っています。

除去をすると、栄養が心配というふうにみんな感じられているかもしれませんが、実際いろいろな形で栄養調査をしますと、栄養素全体は意外と落ちていません。エネルギー量も蛋白質量も意外と落ちていない。

ただ、落ちるものが二つあります。一つはカルシウム。牛乳除去を完全にすればするほど、数字上は例外なく100%カルシウム不足となります。海老澤先生のところにおられる今井(孝成)先生が集計されたデータも、きれいにそのとおり出ていますが、牛乳除去をしていると、カルシウムの充足率というのは50%いかないのです。特別な注意をしているお母さんに限っては充足しますし、アレルギー用のミルクを少し料理に使おうということをされれば、これでカルシウムは足ります。これは、必ず意識しないと100%落ちるポイントになります。

もう一つ、意外と落ちるポイントがあって、何かというと油です。卵、牛乳を使わない料理と考えると、自然に油を使わない料理になって油の摂り方が減ってきます。でも、子どもというのは、大人よりも油がたくさん要るんです。

油は、ボリュームを増やさなくてもカロリーが摂れる食材です。アレルギーの除去をしている子どもはどうなるかというと、ご飯ばかりガツガツ食べる。たくさん食べてウンチばかりたくさん出すけれども、体は大きくならない。というのは、油が少なくて腹持ちが悪いという現象が起こってきます。これは、栄養計算すると非常に偏ったところに来ますし、決して健康的なことではない。アトピーの治療と逆になりますが、「少しは油を使った料理をやりましょう」というのを、逆に食物アレルギーの方たちに指導することがあります。

栄養的に考えるべきことはこの2点です。これは、それなりに栄養士さんが配慮されれば十分克服できる問題です。

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