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温かい心を育むために

東京女子医科大学 医学部長 大澤真木子先生

冬には必要なマフラーも夏には苦痛なだけ

寒い冬には、肌着、洋服、コートはもちろん、手袋、マフラー、帽子さえも欲しいですね。しかし、春になれば薄着がよくなり、暑い夏になればコートや手袋、マフラー、帽子の着用など考えただけでも苦痛です。

お子さんの成長は、いわば四季の変化に譬えられます。生まれたてのときは真冬。ご両親の温かいケアで肌着から帽子まで、しっかり包み込む必要があります。とくに、乳児期にしっかり育んでほしい「人への信頼感」を育てるには、お子さんから送られるなんらかの要求の表現を見逃さずに、応えてあげることが重要なのです。この最も大事なケアは肌着に喩えられ、一生必要な物です。直接、毛のコートを着るのは着心地が悪いように……。お子さんの成長に合わせて、このケアは徐々に薄くしていく必要があります。「過ぎたるは猶及ばざるがごとし」と言いますが、心地よい春や夏に着せ過ぎる事は、お子さんの活動性を損ない、可能性の芽をつんでしまうことになるのです。

“梅雨明け10日”の真夏日にいるような思春期の子供達たち、とくに男の子は、ほとんどご両親と口を利かないといわれます。彼らには、ご両親の存在は真夏日のコートやマフラーのようで、うっとうしく感じられてしまいます。これは思春期の一時的な現象であります。ご両親にもご自分のその頃を思い浮かべて頂けば覚えがおありでしょう。この時期は、友人を強く求め、仲間同士の中で価値ある存在と認められること、他人からどうみられるかなどを強く意識する時期であります。自分とは何か、自分らしさとは何か……など自分の存在意義を模索している最中でもあります。自己同一性(“アイデンティティ”)の確立過程を見守る必要が在ります。時には、自分が社会と直接関わり、アルバイトなどを通じて、役にたって収入を得るという実感が自己評価を高くするのに役立つことがあります。長電話、携帯メールも許容が必要です。

しかし、同時に、“春の初めは三寒四温”と云われるように、寒い日もありえます。又、真夏でも夕立ちや雷があります。保護者の方が、待機して、必要と思われるときには臨機応変にお子さんのSOSを受け止める事ができたら素晴らしいと思います。「子供の言うことや反応がその時々で180度異なり困惑する」とおっしゃる保護者の方が多いですが、思春期のお子さんは「自立」と「依存」の間で綱引きをしているのです。ある時はとても大人じみて、又他の瞬間はとても依存的でーーその行動の違いに周囲の大人は振り回されますが、でも、いつでも逃げ帰る場所があるからこそ、子どもは果敢に冒険に飛び出していくことができるのです。

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