海老澤いまのお話、すごくよかったですね。私がまさに実践していることです。まず、受け入れるんです。それで、後ろに回ってちょっと叩いて、それから経験談を話していくと、その人たちの80%ぐらいはうまくレスポンスしてくれる場合があります。
それから、軟膏のことですけれども、さっき私はワセリンがいいですよという話をしましたが、ここに「非ステロイド系のスタデルム軟膏は接触性皮膚炎を起こす可能性がある」と書いてあります。非ステロイド系の軟膏というのは、昔、私たち小児科は、アンダームとか、スタデルムとか、コンベックとか、よく使っていたんですね。何か非ステロイド、「非」というと、いいじゃないですか(笑)。何となくこれいいなと思って使うんですけれども、薬がその中に入っているんですね。(効果は)ほとんどワセリンと差がないです。
だから逆に、接触皮膚炎を繰り返しやっていると、ひどいことになってしまう例も稀にあります。だから、リスクを考えると、ワセリンとか、ほかのものがいいんじゃないかなと思いますね。
塗るという作業をするものは全部、そのリスクがあります。ワセリンでも、亜鉛華軟膏でも、ヒルドイドソフトでも、合わない人というのは必ずいるんです。だから私は、「この薬を出しますが、塗って合わない人もいます」と、いつも必ず言います。それを知らない先生が結構たくさんいるんです。自分が出す薬にかぶれることは絶対ないって信じて疑わない先生も結構いますから、その辺も皆さん知っておいてください。伊藤先生、いまの前川先生のお話はいかがでしたか。
伊藤みんな同じ経験をしていますね。皆さんの現場でも同じだと思いますが、基本的に親のパターンを診断します。というのは、皆さん、発達障害の勉強をたくさんされていると思いますけれども、いま、発達障害の勉強の中で強調されているのは、自閉症圏のアスペルガーの問題とAD/HDは全く違いますよね。発達障害の子どもというのは、そのまま発達障害の親になるんです。途中で完全に治るのではなくて、基本的な素因をそのまま持って親になって、また同じような子どもを産みます。これは発達障害の親だというふうに呼びます。
そうすると、自閉症圏のアスペルガー的な親と、AD/HDの親と、知的にやや低いと思われる親と、3パターンぐらいに分けると、アプローチの仕方は全然違うんです。一番よくある失敗は、アスペルガー的なお母さんにあれこれ説明する。よかれと思って懇切丁寧にあれこれ説明して、こういう場合もあるけどあんなこともあった、こうなったらああしなさいというようなことを言ったら、完全に混乱します。そのお母さんには、イエス、ノーしか言わない。「これをやりなさい」しか言わないほうが、むしろ親切だったりするわけです。
少し知的に低くて実力不足だなというお母さんは、100%擁護してあげる。例えば、3日間だけ入院で治療してあげるからといって、3日間だけしっかり薬を塗ってきれいにして帰してあげるということを、1年に1回ぐらいずつ繰り返している患者さんというのがいます。自宅ではとてもスキンケアがし切れない。でも、それはどう見ても実力だなと思う方に関しては、そうやって保護的に見てあげる。
だけど、ちょっと例外的によかれと思って気をきかせてあげると、余計にもたれかかってくるというか、どんなふうにこちらにもたれたらいいかわからなくなって、パニックになるお母さん。例えば僕が、自分の外来ではないのに、よかれと思って臨時に「きょう診てあげるよ」と診てしまうと、「私が来ると、いつも伊藤先生に診てもらえることになってます」(笑)と言い出すお母さんがいます。この人危ないなと思ったら、絶対そういう例外はしない。
そうしないと、お母さんが私たちの病院との関係の取り持ち方が理解できないんです。そんなパターンでクレーマー的になってしまうお母さんは、きっといるだろうと思います。よかれと思って、「いいよ、きょうはこれやってあげるよ」と言ったことが、後々、あだになってくることがある。それはお母さんを混乱させてしまう場合があるので、線引きをはっきりさせてあげないと良好な関係が築けないという場面もあります。
小児科医もそうだし、保育士の皆さんも、どうしても、よかれと思ってお母さんを受け入れ過ぎる側面があるので、その辺は技術として注意しなければいけないのではないかと思うことがあります。