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財団法人母子健康協会 第30回シンポジウム 「保育における食物アレルギーの考え方と対応」
1.「食物アレルギーへの考え方の今昔」

東京慈恵医科大学名誉教授 前川喜平先生

最近のエビデンス

1.アレルギー胎児感作

お腹のうちから赤ちゃんが感作されて食物アレルギーが起こるという考えです。これは世界的な大規模な多施設によると妊娠中の食物抗原の除去の研究で、アレルギー疾患の発症に対し妊娠中の食物除去は強い抑制効果は認められない、という結果を得ました。ですから、妊娠中の食物除去に関しては、米国小児科学会、欧州小児アレルギー免疫学会、日本小児アレルギー学会では推奨しておりません。質問されたら、妊娠中の食物除去は食物アレルギーの発症と関係ないと答えてください。

2.衛生仮説

終戦後の混乱の汚いときにはあまりなくて、世の中が落ち着いてきたら、アレルギーが増える。感染症が多い時にはアレルギーは少なく、感染症が少なく、社会の衛生状態が良くなるとアレルギーが増加するというのが「衛生仮説」です。細菌とか異物が入ったときに、それを食べて異物として認識して抗体を産生するリンパ球のT細胞には2種類あります(図1)。細菌に感染したときに働くのと、アレルゲン(抗原)が入ったときに働くのと二つあって、片一方が弱くなると片一方が強くなるというのが衛生仮説です。

これは非常に面白いのですが、必ずしもこのとおりにいかないのです。こんなことを言うと怒られますけれども、中国なんかすごく汚いですが、都会ではアレルギーは起こっています。これは仮説として面白いのですけれども、いまのところ、さらにこれに対して証明するためにいろいろな解明が必要だと考えられております。

図1 免疫因子と免疫反応

3.食物アレルギーと消化管免疫

食物アレルギーを起こすのは蛋白です。蛋白というのはわかりますよね?

食物(栄養素)には炭水化物と脂肪と蛋白があります。蛋白を食べるとお腹の中で消化酵素によって、ペプチドというもっと小さいものに分解されます。最終的には、ペプチドの構成成分でアミノ酸になって腸から吸収されて、体内でいろいろ役に立つわけです。それで、アミノ酸は抗原にはならないのです。

人間の体には、こういうペプチドが入らないようなバリア(関門)があります。その機構は、図2を見てください。腸の長さは十メートルほどありますけれども、人間の腸管には、その表面に絨毛がたくさん生えています。絨毛の表面に、いわゆる上皮細胞というのがありまして、ここに並んでいる。ここから、ペプチドを壊す酵素とか、分泌型IgAとか、そういうのを分泌する機構があるわけです。

図2 消化管粘膜の模式図

一般には、腸に来たペプチドがもし入ろうとすると、例えば、微絨毛の刷子縁酵素のペプチダーゼがそれを分解してしまうとか、分泌型IgAがペプチドとくっついて腸から吸収させないようになっています。

もう一つ、腸内細菌叢というのはご存じですね。皆様のお腹にいるもの。その中のエンドペプチダーゼというのはペプチドを分解する働きがあるわけです。ですから、大人は食物アレルギーは起こらないのです。

4.乳児の特徴

ところが赤ちゃんは分泌型のIgA産生がまだ少ないです。それから、上皮細胞間の結合が壊れやすいようにできています。消化機能が未熟です。おまけにウイルス性胃腸炎に罹患することが多く、免疫担当細胞を活性化することが多い。それから、腸内細菌叢が未熟等で、腸の粘膜上皮細胞のバリアー機能が低下して、普通だったら入らないオリゴペプチドが吸収されて食物アレルギーが起こる可能性があるわけです。

この機能は年を取るにつれてだんだん完成しますので、本当の食物アレルギーは2、3歳になるとだんだん減ってくるのが普通です。この理由として今お話ししたようなことがあるからです。

あとの先生に少し時間をとっておいたほうがいいと思いまして、あえてこれでやめさせていただきます。

それでは、次の海老澤先生から、「乳児期の食物アレルギーへの対応」というお話をいただきます。先生、よろしくお願いします。

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