タバコの煙は子どもの体や知能に大きなダメージを与え、将来の健康まで損ねるものであり、子どもにタバコの煙を吸わせるだけでも一種の虐待行為と言っても過言ではありません。
近年、アレルギーを持つ子どもが増え、保育園・幼稚園でも対応に苦慮されていることと思いますが、受動喫煙は気管支喘息やアトピー性皮膚炎を悪化させることがわかっている他、食物アレルギーを悪化させるというデータも出ています。
子どもたちの様々な病気やアレルギーを予防し、その症状を改善させるためにも、子どもたちをタバコの煙から守る必要があります。少なくとも、子どもの近くでは絶対に喫煙してはいけませんし、たとえその場に子どもがいなくても、子どもが入る可能性のある部屋や車の中では喫煙すべきではありません。室内や車内で喫煙すると、壁などにタバコの煙の成分が付着し、そこから発がん物質などの有害成分が長期間揮発することが知られています。このように、揮発して漂い出る成分を「サードハンド・スモーク(残留タバコ成分)」と呼びますが、これも子どもたちにとって非常に有害です。
昨今、家庭内や車内で喫煙する親も多く、大勢の子どもたちが受動喫煙の被害を受けていることは重大な問題ですが、さらに家庭から持参される寝具などにタバコ臭が付いていることがあり、ここから漂うサードハンド・スモークが周囲の子どもたちに大きな害を及ぼしていることも深刻な問題です。
喫煙している保護者に対しては、子どもの近くや寝具を置いている部屋では絶対に喫煙しないよう、啓発を進める必要があります。保護者に対して、受動喫煙やサードハンド・スモークの有害性について情報提供し、子どもたちの健康と健やかな成長のためには子どもたちをタバコの煙から守ることが大切であること、また保育園・幼稚園がそのために努力していることを積極的に広報して、保護者の理解を得ることが重要です。
家庭では換気扇の下での喫煙も避けるように伝えることが大切です。親が喫煙する時に必ず換気扇を回していても、その家庭の子どもの尿からは通常の数倍のニコチン関連物質が検出されます。筆者は「台所でカレーをつくる時に換気扇を回しても、室内でカレーのにおいがするでしょう?」と、例え話をしています。タバコの煙も同様で、たとえ換気扇を回しながら吸っても、煙の一部は室内に残りますから、子どもの受動喫煙の原因になります。
空気清浄機を置いて室内で喫煙している人もいますが、空気清浄機にはタバコの煙の有害物質を除去する効果はほとんどありません。タバコ煙の成分は気体と粒子に分けられ、95%以上が気体ですが、空気清浄機が除去できるのは粒子の一部だけで、気体は素通りしてしまうからです。厚生労働省から公表されている報告書にも「空気清浄機は発がん物質などの有毒ガスをかえって周囲にまき散らす」と明記されています(厚生労働省分煙効果判定基準策定検討会報告書・2002年)。
タバコの煙が引き起こす健康障害から子どもたちを守るために、親は本来なら禁煙すべきですが、どうしても禁煙できないなら、喫煙する時には必ず戸外へ出ることが親としての最低限の義務と言えるでしょう。