海老澤「保育園でアレルギーの症状が出たときにどうしたらいいか」というご質問をいただいています。これは、出てしまったものはなかなか引っ込めるのは難しいですけど、私たち医師が、例えば後輩に、食物アレルギー症状で何に一番気をつけなさいというふうに教えているかというと、呼吸器系の症状です。食物アレルギーの症状というのは、一番多くは皮膚に出ます。皮膚がバーッと赤くなったり、じんましんができたり、かゆみが急に出てきたり、そういうのを皮膚症状と言います。あと、目の結膜が腫れてしまったり、眼瞼浮腫といって、むくんでお岩さんみたいになってしまったり、唇がバーッと腫れたりとか、そういうのを粘膜症状と言います。
呼吸器症状は何かというと、私がいま普通にしゃべっているのは、喉頭という場所をいろいろ調節しながらしゃべっているわけですが、声帯の付近がむくむことがあります。それを喉頭浮腫と言います。そうすると、犬が吠えるような咳とか、声が嗄れて声が出しにくいとか、子どもにそういう症状が出ます。それがたぶん、食物アレルギーとかアナフィラキシーで一番怖い症状でしょうね。喉頭浮腫はもう緊急の対応が必要になります。ですから、いままで何ともなかった子どもが、急に犬が吠えるような咳をするとか、息を吸いにくそうにしているといったら、これは救急車ですぐ連れていかなければいけません。
もう一つ、喘息みたいな症状が食物アレルギーの症状でも出ます。息を吐くときにヒューッという感じになってきたり、咳が断続的に続いたり−−それは必ずしも犬が吠えるような咳ではないですが、前まで何ともなかった子どもがコンコン咳込んできて、息を吐くときにヒューッ、ヒューッとなる。それも緊急に医療機関に搬送しないとダメです。
あと、少し遅れて出てくる場合があります。お腹の症状は、例えば痛みがあったりすると、子どもというのは元気がなくなったりしますけれども、もどしたり(吐いたり)、下したりということは、少し時間がたってから出ることがあります。それを消化器症状と言います。
いま申し上げた皮膚、粘膜の症状、呼吸器の症状、消化器の症状というのは代表的な食物アレルギーの症状ですけれども、これらが一つだけではなくて、同時に襲ってくる場合があります。それをアナフィラキシーと言います。アナフィラキシーのときには基本的には緊急対応が必要なので、医療機関になるべく速やかに連れていくことが求められます。
よく保護者の方から、治療薬として抗ヒスタミン薬をお預かりになったりすると思うんですけれども、抗ヒスタミン薬が効く範囲はどこかというと、大体、皮膚の症状ぐらいまでです。呼吸器系の症状とかお腹の症状には、抗ヒスタミン薬を飲んだとしても、症状が出た後ではほとんど効果がないです。
呼吸器系の症状に効果がある薬は、気管支を広げる薬とか、アドレナリンといって血管を収縮させる薬。でも、気管を広げる薬は吸入しなければいけないし、血管を収縮させる薬は注射しないといけないんですね。だから、基本的に医療機関に行かないとできないということになります。
いま申し上げたのが、症状が出たときの私たちの大体の対応としてやるわけですけれども、これを保育園でどういうふうに考えて、どういうふうにするかというと、やはり皆さん方が、どの症状が出ているのかということをきちんと把握できるかどうか。呼吸器系の症状が出ているのだったら、連携を取っている医療機関とか、救急のところに速やかに連れていくという体制づくりと、保護者の方と常に連絡を取れる体制、そういうことが必要です。
それから、保育園にお子さんを預かるときに最初にやっておいてほしいのですけれども、「誤食は必発です」ということを保護者の方にまず言うこと。それが100%ないということを前提にして皆さんお預かりになっているから、しんどいんですよ。
私たちが、食物アレルギーの症状が出ている人の全国調査というのをやると、60%が新規に発症した方なんですね。でも、残りの40%、医療機関で治療を受けている人は何かというと、間違って食べてしまう。診断を受けているけれども、間違って食べてしまった、そういうケースです。ご自分ですらそういうことが起きるわけであって、それを他人が集団で管理していたら、「起きない」と言うほうがおかしいと思いませんか。それは「起きる」と言ってしまったほうがいいんです。
だから、私は今度の取り組みガイドラインにはそういうふうに書きますよ。「必ず起きる」ということを前提にして、保育園で行動のプランをちゃんと立てなさい。そして、必ず親と連絡を取れる体制づくりをする。それから、皆さんの間で、そういう症状の判断とか、こういうときにはどうするかというアクションプランをきちんとつくっておく。そういうことをちゃんとやることが、食物アレルギーの緊急時の対応、アナフィラキシーへの対応の最も重要な点です。では、次の質問をお願いします。