1.マルトリートメントとは

マルトリートメントとは『避けるべき子育て』を指します。1980年代からアメリカなどで広まった表現で、日本語で「不適切な養育」と訳され、子どもの健全な発育を妨げるとされています。「マルトリートメント」は長いので、最近は「マルトリ」と私は呼んでいます。子どもを怒鳴ったり、叩いたり、つい感情にまかせて親の気分で子への態度を変える、というのが良くないのです。

最近は、スマートフォンやタブレットを子どもにあてがったり、授乳中にもSNSや動画を見たりする親もいます。スマホやタブレットが悪いのではありませんが、親と子の貴重なコミュニケーションの時間がなくなってしまうのは良くありません。子どもがお昼寝中とか、保育園にいる時や子育て支援を頼んだ時に使うなど、子どもとの貴重な時間はちゃんと作ってほしいと思います。

また、しつけのために叩く、体罰を加えることが日本で容認されているからこそ、それがエスカレートし、子どもの命を奪ってしまうケースが後を絶ちません。

WHOのチャイルド・マルトリートメント(Child Maltreatment)の定義は、身体、精神、性虐待そしてネグレクトを含む児童虐待をより広く捉えた、虐待とは言い切れない大人から子どもへの発達を阻害する行為全般を含めた不適切な養育を意味します。つまり、虐待とほぼ同義ですが、「子どものこころと身体の健全な成長・発達を阻む養育をすべて含んだ呼称」であり、大人の側に加害の意図があるか否かにかかわらず、また、子どもに目立った傷や精神疾患が見られなくても、行為そのものが不適切であれば、それは『マルトリートメント』と言えます。

例えば、ニュースで報道される「児童虐待」は、ひどい暴行や性的虐待などが伴った極端なケースであることが多いでしょう。しかし、「マルトリートメント」には、しつけと称して脅したり、暴言をぶつけたりといった心理的・精神的な虐待も含まれます。つまり、報道されるような極端なケースでは無くても、日常生活の場面において起こりうるものです。子どもと関わる多くの大人が、自分は児童虐待と無関係だと思って見過ごし、日常的に不適切な接し方で子どもを傷つけてしまっている可能性もあります。

「マルトリートメント」が頻度や強度を増したとき、子どもの脳は部位によって萎縮したり、肥大したりするなど、“物理的”に損傷します。その結果、学習意欲の低下や非行、こころの病に結びつく危険性があるのです。もちろん、軽微な「マルトリートメント」では、そのようなことは起きませんが、一度傷を負った脳を、もとに戻すことは容易ではないのも事実です。とりわけ、注意しなければならないのは、養育者である親と子どもの力関係は対等ではないということです。『強者』である大人が、『弱者』である子どもを怒鳴りつけ、体罰を与えるという行為は、わたしたち大人が想像するより強い衝撃を与えます。しつけとは、子どもに恐怖を与えることではなく、正しく導くことが目的でなければなりません。

参考文献

  1. 1)友田明美.「新版いやされない傷 - 児童虐待と傷ついていく脳」,診断と治療社,2012.
  2. 2)友田明美.「子どもの脳を傷つける親たち」,NHK出版,2017.
  3. 3)友田明美,藤澤玲子.「虐待が脳を変える - 脳科学者からのメッセージ」,新曜社,2018.
  4. 4)友田明美.「脳を傷つけない子育て マンガですっきりわかる」,河出書房新社,2019.
  5. 5)友田明美.「その育児が子どもの脳を変形させる」,PHP研究所,2019.
  6. 6)友田明美.「親の脳を癒やせば子どもの脳は変わる」,NHK出版,2019.